「流石に塔を爆破されるとは相手は予想してないって!! 中にソアラさんい るかも知れないじゃないですか!!」
「そうですよっ、やめときましょう・・・!」
 悠と愛の制止に、しかし澪亮は聞く耳を持たない。すっかりヒメヤと意気投合し、塔を爆破するつもりだ。
 他の皆も必死になって止めようとしている。
 ――しかし、その中で由衣は一人、何やら考え込んでいた。
「―――それにしても、変だと思わない?」
「え?」
 由衣の問いかけに悠が反応する。
「船に乗っている時はあれだけの激戦だったのに、いざグレンじまに着くと、敵の方から全く攻撃を仕掛けてこない。先兵の一部隊はいてもおかしくないの に・・・まるで『いらっしゃい』といわんばかりに」
「それは俺も考えていた」
 ワタッコが、二人の傍に舞い降りた。
「これは『本物』のジルベールの時の記憶なのだが・・・奴――ゴッドフリートがが差し向けた刺客と戦っていた時・・・つまり、『本物』のジルベールが殺さ れた時なのだが・・・ジルベールは、かろうじてゴットフリートを倒せたはずなのに、それでも『本物』のジルベールはやられたらしいんだ」
「ええっ!?」
 一同は驚いた。
「では、ゴットフリートには『影武者』が何人もいる、と・・・」
 心配げな愛の問いに、
「頂点に立つほどの奴なら、それも考えられる」
 ワタッコは即座に答えた。
「じゃあ、RXさんが刺し違えたのは、陰武者という可能性も・・・」
「否定できないな。むしろ、そっちの方が確率は高い・・・・・・」
「でも澪亮さんの言ってることも否定できないですよ」
 ヒメヤは顔の傷口が治りかけている所を確認しながら、先程より幾分か冷静に言った。

 しばらく、一行はそこで立ち止まって話し合い、二つの推測を立てた。
@ゴットフリートは塔の中でソアラさんを監禁している
Aゴットフリートはここにはおらず、ソアラさんを連れ去って別の場所へ逃れている

 ふとガムが後ろを見ると・・・疲れきったあかつきが、皆から離れてそこで眠っていた。
 周りを元気付けようと顔では強がっていたが、この世界で母と呼べるファビオラと死別したばかりなのだ。精神的なショックは計り知れず、疲れて眠ってし まっても無理はない。



 夢の中で、あかつきは自分を呼ぶ声を聞いていた。
『―――・・・かつき! あかつき!』
(貴女は・・・貴女は、まさか・・・?)
 何度も聞いたソプラノの声。
「貴女は・・・ファビオラ様!!」
 あかつきは、夢の中とはいえファビオラとの思わぬ再会に、驚きと喜びの色を隠しきれない。
 ―――しかし、なぜだろう。体が動かない。声がする方へ行きたいのに。
 こんなに近くに、大好きな人がいるのに。
(こっちに来てはなりません!!)
「ファビオラ様・・・?」
(あなたに、伝えなくてはならない事があります。このままみなさんがゴットフリートへ戦いを挑めば、間違いなく全滅してしまいます。あなたがみなさんを救 うのです!)
「なんだって!?」
(私[わたくし]がこうしてあなたと話していられるのもあとわずか、いいですね?)
 そういい残して消えていこうとするファビオラに対して、あかつきが焦ったような声を上げる。
「ま、待って、ファビオラ様!! オイラがみんなを救うなんて・・・!」
(あなたは強い子ですわ。私が教え、授けた全てをみんなの為に使うのですよ)


「ファビオラ様・・・」
 あかつきは目を覚ました。頬に流れた涙を、前足で一生懸命拭いながら。
「!?」
 その瞬間、愛が何かを察知した。俯けていた顔をさっと上げる。
「みんな・・・このままじゃ私達、全滅してしまいます!!」
 皆はその言葉に驚いたが、誰も否定は出来なかった。サーナイトの愛の『みらいよち』だったからなのである。
「! ・・・きゃあ!!」
 その瞬間、愛を背後からイトマル&ビードル&ベトベターが襲った! 『ドリームメーカー』軍のポケモン達が、暗殺の機会をうかがって忍び込んでいたの だ!
「危ない! 『しんそく』発動!!」
 しかし、その三体のポケモンはあかつきの『しんそく』に蹴散らされ、あっという間に倒されてしまった。
「あかつきさん・・・! いつの間にそんなすごい技を・・・」
 ガムは、愛が襲われたことも勿論そうだが、本来なら使えない筈であるあかつきの『しんそく』を見て驚かずにはいられなかった。あかつきが、短期間で大き くなったような気がしたのだ。
「ワタッコさん達の話、聞いてたよ。確かにオイラ達が全員あの塔に入り込んだら全滅しちゃうよ!」
 あかつきは、夢でのファビオラの助言の事を話した。
 ワタッコの『本物』のジルベールの記憶、愛の『みらいよち』、あかつきが聞いたファビオラの助言。このまま突入することが危険だということがますます否 定できなくなる。
 ワタッコは決断したかのように、さっき話していた@とAの案について話し始めた。
「@の可能性もAの可能性も十分考えられる。もし、@ならば危険を承知でも突入しなければならないし、Aならば澪亮さんの作戦は俺も賛成だ」
 こうもまとめられると、協調性がなければ反論を述べる者もいるものだが、誰も異論を述べるものはいなかった。ファビオラが死んだ今、事実上、四天王 クラスの実力の彼がチームリーダーといっても過言ではないのだ。
「そこで二手に別れて行動すべきだと思う。@を考え、危険を承知でこの塔に突入する突入部隊と、Aを考え、あきはばらさん達と合流する偵察部隊、だ。ただ し、突入部隊にはそうとう苦戦する覚悟と判断が必要だ」
 そこまで言ってから、彼は塔を振り仰いで、
「―――俺はこの塔に突入する。コピーのジルベールとの決着もまだだしな」
 そう言うと、すぐに悠とあかつきが答えた。
「僕は突入します! ゴットフリートの計画を、何としても阻止したいんです! これで行かなかったら主人公としての出番がますます減りそう だし・・・
「オイラも塔に行くよ! 元ファビオラ軍中隊長のオイラなら、この塔にはワタッコさんと同じぐらい詳しいんだ!」
 しばらく考えていたガムも
「僕も行きましょう。瑞さんやRXさんを殺した『ドリームメーカー』は絶対に許す事ができない・・・! ただ・・・もし、ソアラさんがこの塔にいなかった 時 も、塔を爆破するべきじゃないと思うんですが・・・」
 少し言葉を溜めて、ガムは言った。

「この塔を乗っ取るんです!!」

 この発言は爆破より大胆というべきか、無謀というべきか、『ドリームメーカー』が許せないという感情にまかせているのか・・・驚く者もい れば呆れる者もいた。
「もちろんそれを行うだけの苦戦は承知なのですが・・・ここを拠点として行動すれば、少なくともこれまでよりグッと戦況も楽になると思うんです!! どう で しょうか・・・?」
 突入部隊と合流&偵察部隊にみんながどう分かれるか、塔を破壊するか乗っ取るか、で話し合いが始まった・・・。



 

 一時間、経った。しかし、何も起こらない。
 痺れを切らした瑞が、遂にわめき始めた。
「何で!? 私達を、みんなの前に出してくれるって約束したでしょ!?」
「確かに・・・おかしい」
 浅目が呟く。
 ―――と、隣で高笑いが聞こえた。
「オーッホッホッホ! 見事に騙されましたわね、あなた達!!」
「何!? 騙されたってどういう事だよ、ファビオラさん!!」
 驚いて訊くRXに、ファビオラはあざ笑うような表情で告げた。
「あのカオスという者は、ゼロと同一なのですわ! 『ドラゴン四天王』の頂点に立つ『冥府の司祭』、ボーマンダのゼロとね! そのゼロが、あなた方の味方 をするはずがありませんわ!!」
「えええっ!!?」
 思わず、瑞とRXは叫び声を上げてしまった。浅目も、目を大きく見開いてファビオラを見つめている。
 RXの叫び声は、瑞のそれよりも大きかった。この中で、ファビオラ以外に『ボーマンダのゼロはドラゴン四天王四体の合計に匹敵する力を持つ』のを知って いるのは彼だけだからだ。
 そして、ファビオラのあかつきへの想い、あかつきのファビオラへの想いを、目の当たりにした事があるのもこの中では彼だけだからだ。
(そんな・・・ファビオラさん、今になってそんな喋り方するなんて・・・嘘だろう?)
 RXは、もう一度ファビオラを見上げた。
 ―――瞳の奥で、優しげに笑っている・・・?
 『大丈夫、見ていなさい・・・』――その瞳は、そう言っているように思えた。
(もしかして、さっきわざわざゼロの説明を加えるような台詞を言ったのは、ゼロを知らない浅目さんや瑞さんの為に―――)
『そうか・・・やはりお前は、俺達の仲間だったか・・・』
 と、突然カオス・・・ゼロの声が響き、数秒後にファビオラの姿は揺らいで、消えた。
 ゼロが五分だけ、皮肉な言い方だが現実世界に彼女が出る事を許したのだ。
「カオス様!」
 姿の見えぬカオスに向かって、神田は呼びかける。
「あなたは・・・本当に、ゼロなのですか・・・!?」
 カオスは、何も答えない。いや、もうここにはいないのだろうか。
 無回答を、神田は――YES、と受け取った。
「そんな、あのゼロだったなんて・・・カオス様・・・ぐぁぁぁぁぁ!!!!」
 突如として、神田が苦しみ始めた。
 その姿が、徐々に変化していく。
 体は水色から紅に染まっていき、爪は伸びて先がとがり、バキバキと音を鳴らして手足が曲がり、大きくなってゆく。
 その背から生えたのは、一対の大きな翼。
「神田さん・・・どうなってるの!?」
 もう何度目か分からない驚愕の声を上げる瑞。
 姿を変えて――龍になってゆく神田を、RXも瑞も浅目も、ただただ呆然として見ているしかなかった・・・。





 ふたごじまに姿を現したファビオラは、辺りを見渡した。
 『死の歌姫』だった頃に何度も通っているので、良く見知った場所だ。
 ―――ゼロは、どうやらファビオラを信用したようである。裏切って味方した者達を、更に裏切る『演技』をしたファビオラを・・・。
 しかしまさか、ダメもとでやったあの芝居で、ゼロが騙されるとは思っていなかった。
 もしかしたらずっと、ゼロはどこかでファビオラを信じていたのかも―――
(っと、こんな事を考えている場合ではありませんわね・・・一刻も早く、誰かに危機を知らせねばなりません)
 しかし、ファビオラはこの島の地理を知っているだけだ。誰が今どこにいるか、まで知っているはずがない。その上、ここからグレンじままでは、かなりの距 離がある。五分間で間に合うかどうか・・・。
 案ずるより生むが易し。取り敢えず、ファビオラはグレンじまに通じる道へと飛んでいく。




「ポケモンに関係のない・・・龍・・・・・・?」
 神田の変身に驚きつつ、何とか平常心を取り戻した浅目が口の中で言う。ポケモンを愛する人の『心』が生んだ仮想空間・・・というのは、確かガムやヒメヤ 達と合流したあの日の夜、カールと戦う前に聞いた説明だ。
 ポケモンを愛する人の『心』が生んだ・・・それならなぜ、ポケモンかそれに関係する人になっているはずの《なんでもおはなし板》の住人・神田は、例え精 神世界といえどこの世界に龍の姿でいるのだろう・・・?
「ぎぃあああぁぁぁ!!」
 神田が雄叫びを上げた。その力強さと禍々しさに、思わず三人は戦慄してしまう。
 先程の、落ち着いた――?――態度から比べれば、同一人物とは想像もつかない。カオス・・・ゼロに、操られている可能性も、ある。
「ど、どうやって戦えばいいんだ・・・こんな、強そうなドラゴン相手に・・・!?」
 RXが、やっとの事で声を絞り出した。そのRXに、瑞が小さな声で呼びかける。
「ちょっとちょっと」
「・・・何?」
「・・・・・・ゼロ、って何者なの?」
「それは、私も訊きたいと思っていた」
 浅目が会話に入ってくる。
 目の前の龍を何とかする、という課題が残っているため、RXはかなり手短にゼロについての説明をした。
「さっきファビオラさんが言ってた事そのまんまだよ。ゲームの世界でいう『チャンピオン』」
 その三人を、神田は体と同じ色をした瞳で見据える。
「ぎぃあぁぁぁぁあぁあぁぁああ!!」
 紅き龍の雄叫びは、どこか悲鳴のようであった。





 ファビオラは、焦りを感じていた。
 ―――もしかしたら、間に合わないかも知れない。
 正確な時間は分からないが、もうきっと残り時間は二分もない。グレンじまへ、皆に危機を知らせられるかどうか・・・。
 そして、ファビオラが焦る原因はもう一つあった。
(まんまと、はめられてしまいましたわね・・・)
 騙すつもりで、騙されていた。
 ゼロは、ファビオラを信用した、と見せかけただけだったに違いない。そして、五分では皆がいる所に到着できない場所に、わざとファビオラを出現させた。
 生きている皆に追いつかせないため。死んだ皆の戦線から離脱させるため。
 ファビオラは、自分の認識が甘かった事に悔しさを覚えつつ、出来る限り急いで飛んでゆく。
 ―――間に合わないかも知れない。生きている皆に危機を教えるのにも、精神世界の皆の手助けをするのにも。




「仕方ない・・・逃げろ!!」
 RXの声で、三人はじりじりと後ずさるのをやめ、本格的に逃げ出した。
 だが。
「きゃぁぁぁぁっ!!」
「瑞さん!?」
 だが、神田とはまったく別の方向から『りゅうのいかり』が飛んできて、瑞を吹っ飛ばした!
「いたた・・・」
「大丈夫か!?」
 立ち上がって、辺りをぐるりと見渡す瑞。だが、神田以外に敵の姿は認められない。
「どうなって・・・!?」
「ぐぉぉぉおおぉぉ!!」
「うぁっ!!」
 今度は、神田が蒼い火を噴く!
 三人は精神世界の中を逃げ惑い、その炎をかわした。しかし、また別の方向から『りゅうのいかり』が・・・。
「ど、どうなってんだこの世界!? 瑞さん、得意の馬鹿力はっ!?」
「そ、それはブラッキーの悪口を言われたときだけよぉ〜!」
 並んで叫びあいながら逃げ惑う、瑞とRX。
 その二人の前に、突如としてもう一体の蒼いドラゴンが現れた。
「ひ、ひぃぃぃもう一体! もうダメ――」
「待った!」
 瑞の台詞を遮り、RXが大声を上げる。
「浅目・・・さん・・・なのか?」
 蒼い龍は、かすかに頷いた。それからその龍――浅目は、神田に向き直り、大きな火の玉を吹きかけた!

 だが―――。
 神田の吐いた火球は、それよりも更に大きく、強いものだった。
 神田の炎は、浅目の炎を浅目ごと飲み込んでしまったのだ。
「浅目さん!!」
 浅目は、元のメタモンに戻ってしまい、そのまま動かない。
「どうしよう・・・浅目さんは倒れちゃうし、ファビオラさんは裏切るし――」
「ファビオラさんは!」
 RXのいつになく強い語気に、瑞は言葉を飲み込む。
「あ、ごめん・・・ファビオラさんは・・・大丈夫だよ・・・」
 慌てて自分の発言を訂正するような言い方をし、RXは神田のほうを見た。
「兎に角、今はあいつを何とか――うわっ!!?」
「何とかってどうするの〜っ!?」
 何とかしなきゃ、と口では言うが、二人とも炎と『りゅうのいかり』を避けるので精一杯。二人は水タイプでない自分を呪った。

 ドン!

「ほえ?」
 そのときだ。
 神田に何かが当たり、彼女はふらっとよろめいた。
 瑞が振り返ると、そこにいたのは五分ぶりに見るチルタリス。
「ファビオラ・・・!?」
「ファビオラさん!」
「ふぅ・・・こちらには、間に合いましたわ・・・」
 ファビオラはRXと瑞に笑いかけると、飛んでいって、神田から浅目をかばうような位置に着いた。
「こいつは・・・もしかして先程のゴルダック・・・?」
「そうなの! 何だかわかんないけど、カオスって奴がゼロと同一だって聞いたら急におかしくなって・・・!」
 何か考え込むような風を見せたのは、一瞬だった。ファビオラは、神田に『めざめるパワー』を放つ!
 神田がその攻撃に一瞬ひるんだ、その隙にファビオラは神田の懐へと一直線に飛んでいく。
 ―――しかし・・・。
「ぐぉぉおおおぉお!!」
「きゃぁぁ!」
「ファビオラさん!!」
 神田の蒼い炎が直撃し、ファビオラはかなり遠くへ飛ばされてしまった。
「ど、どうしよう・・・!?」
「どうするもこうするもないぜ!」
 RXは、どうやら未だ諦める気はないらしい。
 神田に向かってにやりと笑うと、そのままダーク化する!
「・・・仕方ないっ! 私も戦う、『だましうち』!!」
 瑞は『だましうち』を繰り出した・・・が、神田にはダメージはないらしい。
「くっ・・・」
「次は俺だ! 神田・・・お前は俺を本気にさせーた!」
 そう言って、彼は高く飛び上がった。
「取り敢えず寝てろ! 必殺、アルティメット・RX・ボンバー!」
 必殺技名を口走りつつ、RXは上空から滑空体勢で『かえんぐるま』を放った!
 彼の構想では、『かえんぐるま』でダメージを与え、着地して『たいあたり』で神田を横倒しにし、『ダークエンド』で終わらせる、というものだった・・・ が。
 着地した瞬間に、出所の分からない『りゅうのいかり』を食らい、RXは横に飛ばされる。
「ぐぁっ!!」
 RXはよろよろと立ち上がり、神田を見た。
 既に神田は、ファビオラの『めざめるパワー』を二発、瑞の『だましうち』とRXの『かえんぐるま』を一発ずつ食らっているのだ。普通のポケモンな ら、相当なダメージを受けていてもおかしくない。
 それなのに神田は、表情は良く分からないが平気な顔をして、かなり高い位置から皆を見据えている。
(何でだ・・・?)
 そんなRXの思考を知ってか知らずか、彼に駆け寄った瑞が叫んだ。
「・・・やっぱり無理だ、ダーク化しても敵わない! もうやめよう! あんな凶暴な神田さんに敵うはずが――」
 だが、RXは台詞を最後まで言わせなかった。
「やめてどうするんだ!? もう俺らには逃げ場もないし、護ってくれる強い人もいない。俺達が何とかしなきゃ、四人まとめてこの精神世界からも消え去っち まうかも知れないんだぞ!!」
「・・・・・・」
「そんなの、嫌だろ?」
「・・・・・・嫌に決まってる」
「よっしゃ」
 RXは、どこからか分からないがポロックを出してくる。
「戦うぞ! 忍法、ポロック出し!」
「あんた、どっからそんなもんをーーーっ!!?」
「へっへっへ、船の中からちょうだいしてきてたんだ!」
 まともな事言っていた割に、また変な攻撃を・・・。
 瑞がそう言う間も無く、RXは再び飛び上がる。
「必殺辛いよ攻撃!」
「名前そのままだーーーっ!!」
 突っ込みに回る瑞。
「ぐぉぉお・・・?」
 神田は、興味があるのかRXの投げたポロックの描く放物線をしばらく見た後、おもむろに近付いてポロックを口にした。
「ぐお? ぐぉぉぉおおおぉぉ! ぎぃぁぁああぁぁおおお!!」
 あまりの辛さに、赤い火を噴いてのた打ち回る神田。
「あれ・・・炎が赤い!」
 瑞が、発見したように叫ぶ。
「ほんとだ!」
 その赤い炎は、ぐったりしている浅目にもろにかかったが、不思議な事に浅目はなんともないようだった。
「どういう事・・・?」
「分からない・・・が、取り敢えずきっとあいつは辛い味が苦手なんだ! だから、ポロックを食べさせ続ければ――」
「食べさせ続けて、どうするの?」
「・・・・・・・・・・・・」
 そこまでは、考えていなかったらしい・・・。





 一方、グレンじまでは・・・。
 話し合った結果、悠とヒメヤ、ガム、ワタッコ、あかつきが塔に突入し、澪亮、223、由衣に愛があきはばらとひこを探す事になった。
「準備は終わりましたよ!」
 最終的な作戦を確認しあう一行に向かって、ヒメヤが言う。
 何やら、また物騒なものを船内から持ってきたようだった。先日使用したM16に似ているが、こちらの方が少し短く、やたらとごつい。勿論、そんな違いに 気付けるのはヒメヤくらいのものなのだが・・・。
「な、何ですかその銃は・・・」
 おずおずと悠が尋ねる。
「これですか? これはこの前使ったM16ライフルのカービン型のM4カービンですよ。これもファビオラさんが持ってきてくれたんです。しかもこんなにた くさんのオプションと一緒に! ちなみに今つけてるのは銃身の下のがマスターキー12ゲージショットガンシステム。近距離戦じゃ強力ですよ! それから銃 身の横についてるのがフラッシュライト。暗い所でも大丈夫なように付けときました。あとは近距離用無倍率スコープに超大容量の百発マガジン、それからス コープが壊れたときのためのアイアンサイトもつけました。あとついでに、手榴弾も何発かもって来ましたよ。でもそのせいでちょっと重くて―どうたらこうた ら――うんぬんかんぬん――」
「もう説明はいいです。聞いたところでよく解りませんから」
 一方的によく解らない説明を続けるヒメヤを、仕方なしに悠が止めた。
「じゃあ、行ってきます!」
「気ぃつけてな〜」
 突入組は残りの四人に見送られながら、塔の中へと入って行った。



 五人はエレベーターではなく、階段を使って昇っていく。
「それにしても・・・なぜエレベーターを使わないんですか?」
 ガムがヒメヤに尋ねる。『階段で上る』という作戦はヒメヤのアイデアなのだ。
「エレベーターを使って、向こうで止められたら大変な事になるじゃないですか。相手がもしアサルトライフルでも持ってたら・・・どうなるか分かりますよ ね?」
「・・・確かに・・・想像はつきますね。でも言わないでおきます」
 ガムはそうとだけ答え、黙り込んだ。
 そして一行が階段の踊り場についた、その時だった。
「ちょっとストップ! 上に敵がいる!」
 先頭を歩いていたあかつきが小声で言い、一同を止めた。
 階段の上にいるのは、ライフルを携えたアサナンだ。
「よし、じゃあ僕が!」
 ヒメヤは手榴弾のピンを抜いた。
「一・・・二!」
 小声で二つ数えてから、ヒメヤは手榴弾を階段の上に投げ込んだ!

ズガアアアン!!

 爆音が響いた。
「――良し、行くぞ!」
 ワタッコが先陣を切り、一行は上の階へと駆け上がった。





 そして、こちらは精神世界。
 神田の動きを止める方法は分かったが、それも少ししか持たない。神田を倒す直接的な手立ては、ないに等しかった。
(どうしたらいい・・・?)
 瑞とRXは、RXがどこからともなく大量に出してくる赤いポロックを投げつけて、神田を抑えながら考えた。
「――あいつが止まっている間に、俺と瑞さんでありったけの力を出して、戦えばいいんじゃないか・・・?」
「・・・それしか方法がないかもね。それ以外にあったら教えてほしいし」
 瑞とRXは、発作(?)が治まってきた神田に向かって走り出した。
「ぐおおぉぉおお!」
 神田が、元に戻って再び皆を襲いだす前に。
「行くぞ、瑞さん! 『ダークエンド』!」
「『ダークエンド』!!」
 二人分の『ダークエンド』が、神田に激突した!

 だが。
「――ちっ・・・やっぱ、ダメか・・・」
「ぎぃああぁぁぁ!!」
 神田はびくともせず、紅い瞳で二人を見下ろしていた。
「ここはもう一度辛いよ攻撃を――」
「無理だ! どうしよう、もうポロックがない!!」
「何だって!? このままじゃ、俺達あのギャラドスにやられちまう!」
 RXは叫ぶが、瑞は対照的にきょとんとした顔を作る。
「寝ぼけないでよ! あれはプテラでしょ!?」
「いいや! あれはギャラドスだ!」
 悠長に言い合いを始めた二人を、再び神田の蒼い炎が襲う!
「きゃぁぁ!!」
「ぐあぁっ―――・・・あれ?」
 RXは、首をかしげた。
 確かに、自分の周りには蒼い炎がある。だが、熱や痛みが伝わってこないのだ。
 ここが、死者の来る精神世界だからなのか・・・?
 いや、違う。これは―――
「瑞さん! 『くろいまなざし』を使うのです!」
 後ろから瑞を呼ぶ声が聞こえる。ファビオラ――だ。
「ファビオラさん!? さっきやられたんじゃ・・・」
「いいから! お使いなさい!」
「――分かった、『くろいまなざし』!!」
 言われるままに、瑞は『くろいまなざし』を使った。
 真実を映し出し、敵の力量をあばいて動けなくし、退路を断つ技――『くろいまなざし』。
 瑞がドラゴンの足元に映し出したのは、倒れたゴルダックの姿だった。
「やっぱり・・・!」
 いつの間にか浅目も立ち上がっており、二人は瑞とRXの隣に立った。
「二人とも・・・神田さんにやられたんじゃ、なかったのか!?」
 驚愕の表情を浮かべる瑞。RXも同様の顔をして、二人を凝視している。
「攻撃された時に、痛みを感じなかったから、おかしいとは思ったんだ。精神世界とはいえ、ゴルダックが龍に変化したり、大きくなったり・・・メタモンの私 ですら出来ない事だ!」
 そう言って、浅目は僅かに悔しげな顔をする。
「あの炎と同時に、『りゅうのいぶき』が飛んできたらしいんだ。それでマヒして、しばらく動けなかった・・・」
「・・・じゃあ何だ、どういう事だよ?」
 RXが首をかしげた。
「神田は、実際には龍になってなくて、俺らはその目くらましにあっていた。神田の炎も幻。ファビオラさんと浅目さんは、神田の炎じゃなくて、『りゅうのい ぶき』に倒された・・・・・・?」
「そういう事ですわね――まあ、つまりはこういう事ですわ」
 ファビオラはそう口にすると、同時に全く場違いな方向に向かって叫んだ。
「カオス・・・いえ、『冥府の司祭』、ゼロ!! そこにいるのは分かっています、出てらっしゃい!!」
 皆は驚いた。ファビオラの発言にも、その次に起こった事にも。
 壁がぐらりとゆらいで、その場にボーマンダが姿を現したのだ。
「チッ、さすがは『ドラゴン四天王』の内の一体、『死の歌姫』と呼ばれたファビオラ、ばれていたか・・・」
「もしかして・・・さっきの、『りゅうのいかり』とか『りゅうのいぶき』は・・・ゼロのだったの!?」
「そうだったらしいな・・・ファビオラさんを、現実世界に出したのも・・・」
「ああそうさ。お前達から遠ざけるつもりだった。この龍は、ダメージを与える事が出来ないからな。ファビオラがいない間に、遠くから俺が始末するつもり だったが・・・・・・」
 ファビオラが、ゼロに語りかける。
「ゼロ・・・あなたは、そうやって生と死の境を作り出してしまう事がどんなに恐ろしいのか、本当に分かっているのですか?」
 そう言って、確かに恐れているような瞳で彼を見る。
「生の世界は死者であふれ、死の世界にはこれからの生のある者がひきずりこまれていくのですよ! 私(わたくし)には見えていました! あなたが悠さんと ガムさんを 死の世界へ引きずり込み、カールとクラッシュの亡霊と戦わせた事も・・・!」
 ゼロは、『それがどうした?』と言わんばかりの表情で鼻を鳴らした。
「ふん、全てはポケモン界にとって有害な者の淘汰の為だ」
「――なあ、みんな、あれって・・・」
 突然、RXが声を上げた。怯えたような目つきで、辺りを見渡す。
 瑞や浅目もそれに倣って辺りを見渡し、驚いた。
 ゼロが見せた幻覚の龍と、そうと知らずに戦っていた時は気付かなかったが、皆の周囲を無数のポケモンの亡霊が漂っているのだ。
 皆、死ぬ間際の苦悶の表情を浮かべ、RX達の方を、ある者は恨めしげに、ある者は羨ましそうに見ながら飛び回っている。
「む・・・むごい・・・」
 思わず声を漏らしたRXに、ゼロは誇らしげにも聞こえる声で言う。
「分かるか? 小僧ども。ここにいる者は、皆俺が退治したポケモン界にとって有害な者なのだ。いわばこの俺の強さの証だ!!」
 そのゼロの言葉を否定するようにファビオラが叫んだ。
「お黙りなさい!! その中には元々からこの世界にいた、罪のない方々もいたでしょうに!」
 ゼロは、ファビオラがなぜそのような事を訊くのか分からない、といった風に答える。
「知らんなぁ。まあ、有害なものを退治する為の些細な犠牲だ」
「!?」
 RXがその言葉に激怒した。
 怒りが彼の、ダークポケモンである証の黒いオーラを強く大きくする。
「そんな馬鹿な!? じゃあ、その『有害なもの』って何だ! お前達の崇拝するゴッドフリートの『正義』って何だ!?」
 ファビオラの表情も、段々険しくなっていく。
「ゼロ・・・あなたはその大義を借りて、何百人の罪のない人々の命を奪ったのか分かっているのですか!?」
 おそらくファビオラは、自分が『ドリームメーカー』を裏切る前から、ゼロの行動を知っていたのだろう。
「裏切り者のお前にそんな事が言えるか。――そういえばお前には、我が子のようの可愛がっていたマッスグマがいたなぁ?」
 ゼロはそう言うと、笑みを浮かべた。
 その笑いなれていないが故のいびつさと、考えている事の残酷さが現れた笑みに、瑞はゾッとしてしまう。
「まさか・・・あかつきさん達をこの世界に引きずり込むつもり!?」
 ゼロは答える。
「七十二階に辿りつく時が楽しみだな! ははは!!」
「七十二階・・・私が殺された場所」
 浅目の顔が曇ったと同時に、ファビオラの顔が一変した。
「ゼロ・・・! あなたに『ドリームメーカー』を語る資格はひとかけらもありませんわ・・・」
 ファビオラの顔が、『慈しみの母鳥』から『死の歌姫』へと戻っていく・・・。
「ファビオラさ――」
「くらいなさい! 『りゅうのいぶき』!!」
 しかし、その時だった。
 ファビオラの目の前に、龍が受けていた攻撃を全て受け、ボロボロのはずの神田が立ちはだかったのだ。
「『かなしばり』!」
「くっ・・・身体が・・・!!」
 必死に身動きを取ろうとするファビオラをあざ笑うように、ゼロが言う。
「ははは! いいぞ神田! お前はまだ俺の手の中だ! これからも永遠に働いてもらうぞ!」
 ゼロが、動けないファビオラに対して『ドラゴンクロー』を仕掛けようとした時、瑞とフシギソウに『へんしん』した浅目が神田に『たいあたり』を仕掛け、 ファ ビオラにかかっていた『かなしばり』をといた!
「大丈夫!?」
「え、ええ・・・何とか」
 瑞と浅目は、ファビオラとRXに言う。
「私達が、神田さんをひきつける!」
「その間に、二人はゼロを・・・頼む」
 ファビオラは『分かった』と頷き、
「みなさん、この精神世界ででもう一度死ぬと、魂が引き裂かれ完全な『無』になってしまいます! 絶対にここで死んではいけません! 恐らく、塔の中にい るであろう悠さん達が七十二階に着くまでに、ゼロのみを倒すのです! いいですね!?」
 一同はうなずくとファビオラ&RXはゼロを倒しに、瑞と浅目は神田の目を覚まさせるために飛び掛っていった!
「ふん、無駄な事を・・・」





 一方、塔の中の悠達突入部隊は、二階へ上がろうとしていた。
「?」
 ガムとあかつきが、何かに微かに反応した。
「どうしたんですか?」
 悠が尋ねる。
「今、RXさんの声が聞こえたような気がしたのだけど・・・」
「オイラもファビオラ様から・・・」
 そして二人は口をそろえて、言うのだった。
「『七十二階は危険だ』」―――と。
 前にも愛の『みらいよち』があった事もあり、単なる空耳、偶然の一致とは思えない。
「兎に角、何があろうとも突き進むしかないんだ」
 ワタッコが、皆を元気付けるように言った。


 五人は、四階に辿りついた。
(四=死・・・嫌な響きだなぁ)
 悠がそんな事を思いながら角を曲がり、その先にいる者に気付いて、思わず動きを止めた。
 そこにいたのは、メタグロスだ。
 見た目にも、とても強そうなメタグロス。
 ワタッコから聞いていたのだ、敵のボスは――ゴッドフリートは、メタグロスだ、と。
「ゴットフリート! こんなところにいるなんて・・・!」
 だが、驚いている暇は無い。
「仲間の仇だ! 覚悟しろ!」
 悠はそう叫ぶなり、ゴッドフリートに『かえんほうしゃ』を仕掛ける!
 ―――だが、ゴッドフリートは全くダメージを受けていないのか、びくともしない・・・。
「どうして!? 効果は抜群なはずなのに・・・!?」
 そう呟く悠に、ゴッドフリートは『でんこうせっか』を繰り出してきた!
「な、なんなんだこのメタグロス・・・!?」
 訳の分からぬまま、悠は応戦する。


「・・・どうしたんだみんな? 一体何をやっているんだ・・・!?」
 そう言って、目の前の状況をあっけに取られて見ていたのはヒメヤである。
 ヒメヤの目の前では、悠が、ガムとワタッコが、あかつきが、それぞれに技を仕掛け、バトルしているのだ!
「一体何が・・・」
 乱心したとしか思えない皆の戦いぶりに、ヒメヤは彼らに呼びかけるよりも前に、周囲を見回した。
 そこには、一つの機械部品のようなものが。
(――そうか、こいつのせいだな!?)
 ヒメヤはそう思うが早いか、すかさずその機械部品に向かってライフルを撃った!
 小さな爆発音を立て、機械部品は粉々に壊れた。
 同時に、悠達の動きが止まる。
「・・・? あれ?」
 悠達は、自分達が仲間同士で攻撃しあっていた事に気付き、驚いた。
 ヒメヤが機械部品の残骸を拾って来る。
「みなさん、これに惑わされていたんですよ! どうやらこれは、相手の最も恐れるものを映し出す映像機みたいですね」
 皆は知らなかったが、ヒメヤだけにその映像機の効果がなかったのは、ヒメヤが隻眼だったからなのだ。立体的な映像を映し出すのには遠近感が必要なため、 両目が見える人間にしか効果がない。勿論そういう仕組みなのは、ヒメヤが隻眼である事が計算外だったからだろう。
「ヒメヤさんがいなければ、危うく仲間同士で殺しあう所でしたね・・・先を急ぎましょう!}
 ガムが落ち着きを取り戻し、五階へ行こうと皆を引っ張る。
「ん・・・?」
 ふと、悠は足元に何か光る箱があるのに気付いた。
 この蒼い色は・・・『れんけつばこ』?
(取り敢えず・・・持って行こう)
 悠は、それを大事そうに抱え込むと、皆の後を追って走り出す。

 最終決戦は、まだ始まったばかりだ。




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今回、精神世界のエピソードが、書き手の皆さんの間でもかなり混乱を招いたようです。あんまり『何でもあり』状態にはしたくなかったので、展開を引き継ぐ のに苦労したようですが・・・何だかガムさんが綺麗にまとめてくださったみたいで(笑
ええと、その関係で、今回はかなりあちこち削り、かなりあちこち付け加えてます。私のサイトで言うこの第9章が、多分編集される方全員のを見ると一番展開 に差が出るところだと思うんです。その人なりの編集が見られると思うのできっと面白いですv
ディスクアニマルさんが書かれた部分は、ストーリーは削りましたが、表現をかなり拝借しました。ので、彼(彼女?)もリレー小説参加者、という事で最後の すたっふりすとに描かせていただくと思います(誤字/そしてなぜ平仮名
ええと、ええと、それからなんだろう・・・今回ちょっと短いのは気にしないで下さい(またか
残りのリレー小説をまとめたデータを開くのにかなり時間がかかるんですよ・・・。
あとは、そう、あちこちストーリーを削ってしまってごめんなさい・・・;; 矛盾点をなくす為にがんばったらこうなってしまったんです・・・・・・。


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