そこは、洞窟の中でも少し広めで、近くではマグマが煮えたぎっている為に明るめの場所だった。
 そのポケモンは、くっくっと笑い声を漏らす。
「さすがは医療技術長、《神速の刃を持つ男》。『ダーク計画』はまだ途中ながらもいい成果を挙げているようですね」
「はっ、ありがたき幸せ」
 それに答えたのは、あのストライク、アレクセイだった。
「貴方をここに呼んだのは、他でもなくもう一つ頼みがあってのことです。明日辺り、向こうの世界は土曜日を迎えます。当然『ポケ書』へのアクセスが増えま すし、恐らくここに迷い込む新たな住 人も出るでしょう。その者達を、他に気づかれる前にダーク化してもらいたいのです」
 アレクセイは頷く。
「――では、あのマグマラシのようにやればいいのですね?」
 ゴットフリートはゆっくりと首を左右に振った。
「いえ、今度は手術して数時間後にダーク化の症状が出るようにしてもらいたいのです。手術時の記憶も消して・・・。そう、向こうの懐にもぐりこませ たあとにいきなり向こうを攻撃するように・・・。あのシステムならば『リライブ』の心配もしなくていいですし、いきなりダーク化したら向こうも混乱してう まく 対抗することが出来ないでしょう。私のコンピューターからなら一部の地域を除いて新しくきた者の居所をつかめます。やってくれますね」
「はっ、承知しました」
 そう答えた次の瞬間には、もうアレクセイのその姿は消えていた。



 RXの炎に焼き落とされたガムとワタッコを追って急降下した浅目 は、着陸するとすぐに元の人間体に戻った。
「ワタッコさん! ガムさん!」
「浅目さん! ワタッコさんが・・・!」
 ブースターのガムは『もらいび』でノーダメージだったが、ワタッコはやけど状態になって倒れている。
「RXさんがダークポケモンに・・・・・・どうして!? さっき我にかえったばかりなのに・・・!!」
 ガムは、目の前に起こった出来事がまだ信じられない様子だった。
 ファビオラの助けを期待したくても、この森は葉がうっそうと茂っており、上空から彼らの姿を見つける事は困難だろう。
「ガムさん! RXさんは完全に理性を失っている! もう戦うしかない!!」
「ちくしょぉぉぉ!!」
 ガムは身構え、浅目はフシギソウに『へんしん』した!
(え・・・炎タイプ相手にフシギソウ・・・?)
 だが、ガムが浅目の真意を問い返す前に――
「殺す・・・」
 RXの『ダークミスト』が炸裂した!
「うわっ!!」
「くぅぅっ!!」
 大きく体勢が崩れた二人を再び『かえんぐるま』が襲う!!
「きゃぁぁ!!」
 浅目はその一撃で倒されてしまった。地面に倒れ伏し、動く気配がない。
「・・・」
 RXは更に『ダークエンド』を放つ!
「いけない、浅目さん! ・・・ぐっ・・・!!」
「ガムさん・・・!!」
 浅目をかばおうとして、RXの『ダークエンド』をガムはまともに受けてしまった。
 ガムは倒れながらも、必死にRXに向かって呼びかける。
「・・・うぅ・・・・RXさん! お願い、正気に戻って!!」
 だが、ガムの説得も全く効果がない。RXの瞳は、依然として剥き出しの敵意と殺意を宿したままだった。
 やはり倒すしかないのか・・・
 RXはものすごい勢いでガムに向かってくると、
「『ダークエンド』!!」
「そのワザは三回目・・・もう見切った!」
 ―――だが。
「!? ・・・違う! これは『スピードスター』!?」
 ワザの嘘出しだ!!
「ぎゃぁぁ!!」
 『スピードスター』が、ガムを襲う。ガムはそのワザに、目元を傷付けられてしまった。
「・・・くそ・・・め・・・目がかすむ・・・」
 ガムはそのまま、身動きがとれなくなってしまった。
 そこをすかさずRXの、今度こそ本物の『ダークエンド』が襲う!!
「・・・げほっ!!」
 ガムは倒れた。
「か・・・勝てないのか・・・?」
 悪鬼と化したダークポケモンのRXの攻撃に、Eチーム一同は手も足も出ない。
 ――――かに思われた。
「ガムさん! ふせるんだ!!」
「・・・ワタッコさん!?」
 先ほど倒されたワタッコが、『こんじょう』でやけど状態を逆手に取り、『ゴッドバード』で突撃したのだ。
「!?」
 しかし、RXの『かげぶんしん』の前に、その攻撃は彼の残像をとらえたのみ。
 ワタッコはふらつきながらも上昇し、RXを見て―――目を見開いた。
「この状態は・・・まさか!?」
 だが、ワタッコの体力はやけど状態の所為で限界だった。
 墜落しかけたワタッコを、RXの『かえんぐるま』が容赦なく襲う。
「だめだ・・・! よけられない!!」
「!? ・・・ぐぁぁぁ!!」
 しかし、ワザを命中させる前に、RX自身が苦しみ始めた。
 長時間の戦いで、RXのダークエネルギーが逆流し再び『リバース状態』になったのだ。
 それでもRXは『かえんぐるま』の体勢のまま、全身からすさまじい炎をあげている。
(チャンスは今しかない・・・!!)
「ワタッコさん! RXさんの方向を僕に教えて!」
 周囲の景色がまだかすんで見えるガムが、ワタッコに向かって叫んだ。
「分かった。―――よし、その方向だ!」
 ガムはRXにまっすぐ突撃する!
 そして、炎をあげているRXをがっちりつかむと、
「今です、『そらをとぶ』で僕を持ち上げて!!」
「――分かった!」
 ワタッコはガムの真意を察したのか、彼をRXごと爪で掴みあげると、そのまま回転しながら『そらをとぶ』で上昇した。
 地上から十メートル・・・二十・・・三十・・・どんどん上がっていく。
 そして――
「よし、行くぞガムさん!」
 二人を掴んでいた爪を放した!!
「いっけぇぇぇ!!」
 ガムはRXの上げていた炎を身に受け、『もらいび』で強くなった炎を逆に身にまとい、そのままきりもみしながら地面に直撃落下した!
 最近のジャンプの技に例えると『地獄○舌落とし』、昔のジャンプの技に例えると『ペガ○スローリングクラッシュ』のような荒技。ガ ムの『ブースター版[ちきゅうなげ]』というべきだろうか。
 ガムは頭から地面へ、RXは腹部から地面に激突!
「・・・! げほぉ!!」
 RXはその衝撃で、何かを吐き出した。
 小さな、黒い箱のようなものだ。
「・・・やったか・・・!?」
 これで倒せなければ、ガム達にもう勝機はない。
「――――!?」
「そ・・・そんな」
 RXは、立ち上がった。
(――もう、終わりなのか・・・・・・)
 ガムもワタッコHBも死を覚悟した、その時。
「うぅ・・・」
 突然、RXの体が前後に揺れた。彼は肩口から地面にぶつかる。
「うまくいったかな?」
 なんと先ほど一撃でやられた筈の浅目が、その時のダメージを受けていないかのように平然と立っていた。
「これは・・・『やどりぎのタネ』・・・」
 ガムもようやく全てを理解した。
 ダークポケモンに対して、正面攻撃では勝てないと判断した浅目は、『へんしん』した直後に『やどりぎのタネ』をRXに植え付けていたのである。そして HP が吸収され、『リバース状態』の体力減少、『ダークエンド』の反動のダメージでの自滅を誘ったのだ。
「そうだったのか・・・。でも、これでRXさんは元に―――」

 ドオオオォォォォォン!!!!!

 ガムが言いかけたその時、ものすごい轟音とともに一行の前方にあったものが爆発した!
「アレは確か・・・さっき、RXさんが吐き出した・・・」
「危ない所だったな・・・・・・」


 だが、RXはまだ危機を脱出できたわけではなかった。
「このままだと、悠さん達と合流する前に『リバース状態』にやられてしまうぞ・・・」
 ワタッコがRXを診ながら言った。
「何とかならないの!?」
 浅目が必死に問いかける。
「――浅目さん、確か『オーロラチケット』を持っていたよな? 『たんじょうのしま』へ行けば、なんとかなるかも知れない。あくまでも可能性の話だ が・・・」
「『オーロラチケット』があれば、そこに行けるの?」
「ああ。私も原理はよくわからないが・・・。『オーロラチケット』の持つオーロラの力が、通常は結界が張られていて見る事も出来ない『たんじょうのしま』 へ行く為に必要なようだ」
 浅目は再びピジョンに『へんしん』した。ワタッコはRXを掴み、ガムも動かそうとするが・・・
「・・・痛っ!! すみません、しばらくこのままにしてください・・・僕も必ず後から行きますから・・・」
 ガムは先程の荒技で頭から突っ込んだダメージが、まだ残っているようだ・・・。
「・・・どうします、ワタッコさん?」
「・・・・・・仕方がないな・・・ガムさん、ここで待っていてくれ。RXさんを何とかしたら、すぐ戻ってくるから。もし動けるようになったら、私達の後を 追ってきて欲しい」
「分かりました」
 ワタッコと浅目は気絶したRXを抱え、後ろ髪を引かれる思いでガムを置き去りにし、森を後にした。




 ―――ここは、『たんじょうのしま』。
 だがそこにデオキシスの姿はなく、かわりに大きな一つの像が立っていた。
「これは・・・・・・?」
「これは、『せいなるほこら』だ」
 その名前は、浅目も聞いた事があった。だが、何だったかまでは良く覚えていない・・・。
「本来なら、これはオーレ地方にあるものだ」
「・・・?」
 浅目は驚いたように首をかしげた。オーレ地方でもないこんな所に、『せいなるほこら』があるなんて・・・。
 でも確かにそこから放たれる光からは、悪意のあるものを近づけない神聖さを感じる。
「ワタッコさん。どうしてこんな所に『せいなるほこら』が・・・?」
「この『せいなるほこら』は、良く似ているがオーレ地方のものじゃない。先代の『ドリームメーカー』リーダーにより、この世界の平和の象徴として創られ た・・・」
「ワタッコさん。今さらですが、どうしてそこまで『ドリームメーカー』の事に詳しいんですか?」
 浅目は、思い切って突っ込んだ質問をしてみた。
「・・・みんなを巻き込みたくなかったのだが、ここまでくるともう後には引けないな・・・。実は私がこの世界に初めて来た時、出てきた場所がここで、その 時私はスバ メだったんだ・・・」
「・・・」
 浅目は静かに、ワタッコの話に耳を傾ける。
「そこには『本物』のジルベールがいた。私と『本物』のジルベールは、ここで一つになったんだ」
「それって・・・同化? デジモンのマトリッスクエボリューショ・・・」
 浅目が言い切る前にワタッコは「そこまで言うな」と首を横にふった。浅目も追及はしなかった。
「兎に角、ここにいれば敵が来ても間違いなく身を守れる。ここでRXさんの『リライブ』と傷の手当て、あと、ガムさんを待とう」
「はい・・・」



 一方、Aチームはカールの言葉を愕然としながら聞いていた。
「ど、どういうことだ!」
「何で瑞がダークポケモンにならなあかんのや!」
 皆、驚きを隠せないようだ。
「これも、有害なものを消す為さ」
 カールは当然の事であるかのように、さらりと答える。
「なんで・・・そんな事・・・!」
「お前達に、教える必要はないだろう! クラッシュ!」
「なっ・・・!」
 いつの間にか後ろに回っていたクラッシュから、不意打ちの『かえんぐるま』が放たれた!
「うゎ!」
「ぐは!」
 『かえんぐるま』が直撃し、悠とあかつきは吹っ飛ばされた。
「・・・ぐ・・・」
「悠! マッスグマさん!」
「大丈夫ですか!?」
 慌てて駆け寄る由衣と愛。
「いてて・・・オイラはマッスグマさんじゃない、あかつき!だよ・・・」
「おしゃべりしてる暇はないぜ?」
 二人は、クラッシュのその声に振り返る。
 クラッシュの顔は笑っていた。まるで、遊んでいるかのように。
 そう、迷い込んだ人々を手玉にとって、遊んでいるかのように・・・・・・。
「くっ・・・」
「そのまま倒されてしまうんだな・・・幸運にもダークポケモンになる前に」
「私達が貴方達に何したっていうのよ!」
 カールに向かい、由衣は叫んだ。
「何をしたかって? お前達が存在する、その事自体が有害なんだよ! ―――クラッシュ、あとは頼んだぞ」
 そのままカールはどこかへ消えてしまった。
「・・・・ッくそ!」
 全員が長い道のりを歩き疲れ果てており、合流した三人も激戦の疲れが残っている、こんな状態でこいつに勝てるのだろうか。
 いや、もはや対等に戦えるかどうかもわからない。
(――何かある筈だ・・・考えろ! 考えるんだ!)
「さ〜てと、じゃあ、残りの始末と行きますか・・・『ほのおのうず』!」
「ぐはっ・・・!」
「きゃあっ!」
 倒れる由衣と愛。
「あばよ」
 二人にとどめをさそうと、クラッシュが『かえんぐるま』を放った、その瞬間。
「ばぁ!!」
「っ?!」
 クラッシュは思わずひるんでしまった。
 『おどろかす』・・・だ。
「・・・・・・あ・・・」
(そういえばいたよ・・・一人、ここまで何も持たずに浮いてきて、全く疲れてない奴が・・・)
「HAHAHA,これしきのことで驚かされるとは、やっぱドリームメーカーって馬鹿か?」
 勝ち誇ったような笑みを浮かべ、澪亮がクラッシュの前に立ちはだかっていた。
「ちっ、まだちゃんと戦える奴がいたとは・・・」
 クラッシュは舌打ちした。



 ガムは目を覚まし、辺りを見渡した。
 壁一面に棚が並んでおり、そこには薬品くさいものやCDディスクや機械部品などが整然と置かれていた。それらを見渡しながら、ぼんやりした頭で、何とな く体が動きにくいな、と思う。動きにくいというか、その域を超えて全く動かな―――
 ガムは完全に目を覚ました。彼は、寝台のような物にはりつけにされていた。
「気がつきましたね」
「!?」
 その目の前にはエーフィのルエルスとブラッキーのルレン、それにガムには見覚えのないストライクもいる。
「まさか、ダークポケモンを倒すとは・・・私(わたくし)達でも予想外でしたわ。でもあなた方の最大の弱点は仲間意識が強い事。今度は貴方をダークポケモ ンにして あげますわ。フフフ・・・」
「・・・っていたんだ」
「?」
「待っていたんだ、この時を。一人で倒れていれば、必ずお前達がここにつれて来ると・・・」
 ガムの目つきがかわっていく・・・。
「お前達のような奴らは、絶対に、絶対に・・・・・・」


 許さない。




「ふぅ・・・これで良し・・・」
 ワタッコが溜め息とともに呟く。
 その足元には、気を失ったままのRX。脇には、心配そうにRXを覗き込んでいる浅目が。
 ワタッコのその呟きとともに、『リライブ』が開始された。




「まだ戦える奴は、ここにもおるで!」
 そう言いながら前に進み出たのは、223だった。
 クラッシュは、澪亮から注意を逸らし、223の方を見た。
 ―――なので、澪亮が何をしたか、クラッシュは気付かなかった。
「お前は・・・確か、唯一の人間だな。カール様に倒されて動ける状態じゃないと思っていたが・・・・・・。貧弱な人間から片付け―――」
 当然、223は自分のポケモンを出すだろうと予想していたクラッシュは勿論、他の皆も、次に彼が取った行動に上手く反応できなかった。
 223本人が、クラッシュに突っ込んで行ったのだ。
「なっ・・・!!」
「おい、われ、俺が見せたるわ! 浪速(なにわ)のど根性をな!」
 そう叫びながらクラッシュに殴りかかる。
 ―――が、223は人間だ。クラッシュに勝てるはずがない。
「俺も舐められたものだな・・・人間に刃向かわれるとは。『かえんぐるま』!!」
「ぐあああっ!!」
 クラッシュの『かえんぐるま』に、吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる223。
 ――我に返った悠が、やっと彼に駆け寄るという事を思いついた。
「223さん、大丈夫ですか!?」
「いててて・・・な、何とか・・・・・・」
 ・・・大丈夫に見えない。脇腹の辺りが、血で濡れ始めていた。
「あんたねぇ・・・自分のポケモンで戦うって事を考えなさいよ!」
 由衣がそう言いながら、あの『すごいキズぐすり』が沢山入った袋を投げて寄こす。
「・・・・・・由衣さん、ポケモン用の薬って、人間に使っても大丈夫なんですか?」
「ないよりましでしょ」
(・・・・・・意外と大雑把なんだな、あの人・・・)
「HAHAHA、やっぱり俺が一番丈夫なんだな!」
 なんて言って澪亮は笑っている。
「それはお前が何にも持たずにここまで歩いてきて、かつノーダメージだからだろ!」
「それも丈夫さのうちだ!」
 クラッシュは、再び澪亮に向き合った。
 が―――クラッシュは、何もしないで立っているだけだ。
 澪亮は不審に思いつつも、相手の出方を伺って攻撃は仕掛けなかった。

「―――――・・・」
 クラッシュが何か呟いた。
「あ?」
 それはとてもとても小声だったので、近くにいた澪亮すら聞き取る事は出来なかった。
「――っ、うあおい待てっ!!」

 クラッシュはそのまま、走り去ってしまった。
 ―――澪亮に『のろい』をかけられたのに、気付かないまま。



「ハァハァハァ・・・うぅ」
 研究所のような建物から、ガムが一人出てきた。
 彼が出てきた後には、ボロ雑巾のようになったルエルス、ルレン、ストライクが残されていた。
「みんなと合流しないと・・・」
 ガムはヨロヨロ歩きだす。



 一方、こちらは『たんじょうのしま』。
 ワタッコと浅目は、一向に終わる気配を見せないRXの『リライブ』に、焦りを感じていた。
「どうして・・・・・・!?」
「分からない。が、このまま『リライブ』が終わらなければ―――」
 ワタッコは言いかけ、途中でやめた。
「・・・ワタッコさん?」
「・・・・・・来る」
「え?」
「・・・・・・・・・何かが、来る・・・」
 彼がそう言った、その瞬間だった。

 空が、突如として明るくなった。
 太陽の何倍も大きくて、何倍も強い光が二人を包み込む。
 キラキラと光る火の粉が上から舞い落ちてきた。
 二人は上を見上げた。
 大きな鳥ポケモンが、舞い降りてくる。

「・・・!?」
 鳳凰、だ。
「な!? 鳳凰!」
 ワタッコが身構えるが、鳳凰は言う。
「そう身構えずとも良い・・・私は彼の『リライブ』を手伝いに来た」
 辺りに響き渡るような声だ。
 そして鳳凰は、『せいなるほのお』で『せいなるほこら』を燃やし始めた。
「鳳凰? 一体、何を―――」
「私の炎の持つ聖なる力で、彼の負の力を押しとどめ、『リライブ』を促進する」
 鳳凰は浅目の問いを遮ってそう言うと、更に炎の勢いを強める。


 しばら経つと、やがて炎は段々と下火になり、薄れて消えた。
「っ!! RXさん!」
 ワタッコと浅目はRXに近づく。
「そいつはもう大丈夫だ・・・ダークポケモンとして暴走し、敵味方見境なく攻撃するようにはならないだろう。だが・・・意識が戻るのに・・・」
 鳳凰は話を途切れさせた。
「・・・・・一体どれぐらいでRXさんは目覚めるんですか?」
 ワタッコが訊く。
「・・・目覚めないかも知れない・・・」
「え!?」
「どういう事だ!?」
 二人は驚いて問い返した。
 ここまで来て、やっと助けられたのに・・・なのに、目覚めないなんて―――。
「何か・・・何かきっかけがあれば意識が戻るだろう・・・そう、きっかけがあれば」
 そう言うと、鳳凰は大きく翼を動かす。火の粉がばっと飛び散った。
 ――飛び立とうと、している。
「待て!
 浅目はそう叫ぶなり、ピジョンに『へんしん』して追いかける構えを見せる。が、鳳凰は浅目を押しとどめるように翼を軽く振った。
「・・・私には時間がない・・・私は大いなる眠りにつかねばならんのだ・・・」
「・・・?」
 ワタッコはすごく不思議そうな顔をしている。
「・・・十年ほどの眠りにつく・・・さらばだ。・・・ただし・・・もし、悪の力が抵抗を始めるなら・・・私は目覚めるだろう」
 そう言い残し、鳳凰はその金色に輝く翼をはためかせて去っていった。
 明るい光が掻き消え、辺りは元の明るさに戻った。
 鳳凰の光に慣れてしまったワタッコと浅目には、その明るさがとても暗く思えた。


「鳳凰は、きっかけ・・・って言ってたな・・・」
「きっかけ・・・。どうやって、RXさんを目覚めさせれば・・・?」
 二人は、未だ目覚めぬRXの前で、ああでもない、こうでもないと議論を続けている。
 ―――議論は、その後続けられなくなった。
「そこまでです!!」
 ワタッコは、その聞き覚えのある声に顔をしかめて、浅目は、その聞き覚えのない声に不思議そうな顔で、それぞれ空を見上げた。
 何かが、降りてくる。
 上空に浮かぶ、二つのシルエット。
 ――――『サイコキネシス』の力で空に浮かんだ、ルエルスとルレンだった。
「お前達をつけてきて正解でしたわ! お前達が『オーロラチケット』によってここへの入り口を開いてくれたから、入ることが出来ましてよ」
「先程は変なブースターに研究所を破壊されましたが・・・」
「でも丁度いい機会です。お前達の命で、我慢してやりますわ! きっと、他の人も今頃はクラッシュに倒されて、クチバシティ辺りでくたばってますわよ!」
「まぁ、お前達に彼らを助けに行く機会は訪れないでしょうがね・・・」
「な、なんだって!!」
「見たことがない奴らだが・・・・・・味方では、ないようだな・・・」
 浅目はそう呟く。
 二匹は着陸するなり、ワタッコと浅目に攻撃を仕掛けた!
「『ダークレイブ』!!」
「『ダークハーフ』!!」
「なっ・・・・・・ダーク技!?」
 その破壊力は、あっという間にワタッコと浅目を飲み込んだ。
 辺りに土煙が立ち込める。
「私(わたくし)達は、あのブースターにボロ雑巾のようにされましたわ・・・」
「だが、あれは本体ではなく、『みがわり』だったのですよ」
「そして私達は、アレクセイ教授によって、ダーク化の手術を受け、ダークポケモンとなったのです!!」
 見事に台詞を分け合うルエルスとルレン。
「それでは・・・とどめを刺しましょうか」
 ルレンがそう言う。
 煙がはれたその場所には、かなりのダメージを受けたワタッコと浅目が倒れていた。
「『ダークエンド』!!」 ×2

 ドォォォン・・・!!

 轟音とともに、再び土煙が視界を覆う。
 そして、煙がはれた時―――。
 その場所にいたのは、眼を閉じて死を覚悟したワタッコと浅目。

 その二人をかばうように立つ、RXの姿。

「――RXさん!!」
「目が覚めたのか!?」
 RXは、怒りの炎が宿った目で、エーフィとブラッキーの姉弟を見ていた。
「・・・も・・・」
「・・・?」
「・・・くも・・・よくも・・・よくも浅目さんとワタッコさんを傷つけやがったな! このブサイク姉妹!!」
「なっ・・・ブサイク姉妹、ですってぇ!?」
「その上私は男です!!」
 ルエルスとルレンが苛立っているのが良く分かる。
「ふん・・・どうせ、このワザの前には貴方は無力ですわ! 『ダークエンド』!」
「『ダークエンド』!!」
 二匹の『ダークエンド』が炸裂した!
「グギァーっ!!!」
 RXは倒されてしまった―――
「ウフフ、楽勝で――」
 かに見えた。
「よくも・・・やりやがったな!」
 RXが立ち上がり、そう叫ぶと同時に、黒いオーラが彼の体を包み込んだ。
 瞳が、暗い光を燈す。
 ――ダークポケモンの、瞳。
「なっ・・・ダークポケモン!?」
 ルエルスやルレンだけでなく、ワタッコと浅目も驚いている。
「・・・どうして・・・。鳳凰は、もうRXさんはダークポケモンとして暴走するようにはならない、と――」
「・・・・・・いや、鳳凰が言った事は、正しいかも知れない。ダークポケモンとして、『暴走するようには』ならない、と・・・」
「という事は・・・!?」
「ああ、恐らく、な・・・」
「・・・ふん、しかし同じ事ですわ!」
 いくらか落ち着きを取り戻したように、ルエルスが言う。が、その直後――
「よくも・・・よくも・・・! 『ダークエンド』!」
 RXは『ダークエンド』を放った!
「きゃぁぁぁっ!!」
「ぐうっ・・・!」
 二匹は吹き飛ばされる。
「く・・・たった一体のダークポケモンの攻撃が・・・こんな威力を・・・!?」
 倒れた二匹のところにRXは走って行き――
「まずはワタッコさんの分・・・『ダークエンド』!!」
「ぐわっ!!」
 まずはルレンに攻撃を放った。
 そして、間髪いれずにルエルスへと向き直る。
「次は・・・浅目さんの分だ! 『ダークエンド』!!」
「ぎゃぁっ!!!」
 ・・・もう、RXは誰にも止められない。
「そして・・・最後は・・・・苦しめられている、みんなの分だ! 『ダークエンド』!!!」
 今までにない、特大の『ダークエンド』を、二匹に食らわせた!
 ルエルスとルレンは、悲鳴を上げる間も無く気を失ってしまった。
「強い・・・」
「あ・・・ああ」
 ワタッコと浅目は、呆然としたように言う。
 そして、その言葉を言い終わったと同時に、RXは元に戻っていた。




「・・・ちっ・・・! ・・・奴は、自分の意志で理性を失う事なく、ダーク化できるようになってしまったようです・・・」
 洞窟の中で、アレクセイは呟いた。
 その言葉を、ゴッドフリートは黙って聞いていた。



「まさか、そこにいるのは・・・ガムさん!! 大丈夫ですの!?」
 突然、ガムは誰かに声をかけられた。
 声のする方向をしばらく考えてから、上を見上げる。
 そこにあったのは、見覚えのあるチルタリスの顔。
「あなたは・・・ファビオラさん・・・」
 ファビオラは、ガムのすぐ目の前に舞い降りた。
「ぐずぐずお話している暇はございませんわ。さあ、早く私の背中にお乗りになって! 『キズぐすり』も持っていますから、早く!」
 ファビオラの語調が強まる。
「・・・分かりました・・・ありがとう、ございます・・・・・・」
 ガムは傷の痛みをこらえつつ、ファビオラの背中に乗った。
 ファビオラはザックを背負っている。きっとこの中に『キズぐすり』があるのだろう。
 ガムはそれを開け、中の『キズぐすり』を取り出した。
「足りるかどうかは分かりませんが・・・あるだけ使って構いませんわ。さあ、急ぎますわよ!!」
 ファビオラはそう言うと、ガムを乗せて飛び立った。


 ファビオラは、地面すれすれを全速力で飛行している。
「それにしても、ぐずぐずしている暇はないって・・・どういう事ですか?」
「悠さん達が、『クラッシュ』とか言う荒らしに襲われて苦戦しているのです! 愛さん達も合流したようですが、まだ戦力が足りません! 私(わたくし)も 合流しようと思ったのですが・・・その時、あなたのいた研究所が爆発したのが見えましたのよ。何だろうと思って見てみたら、ガムさんがいたというわけです わ。さあ、急ぎましょう! 皆さんの所へ!!」
 ファビオラはガムの問いかけにそう答え、そして全力で飛行を続けた。
 目指すは、悠たちの待つクチバシティ・・・・・・。


 
(どこにもいなかった。探したけど、どこにも・・・)
 病院にいると連絡があったが、素人目から見ても連れさられた痕跡はない。
 だからといってあの情報がガセだったというわけでもないようで、実際に彼女らを見た者もいた。
(どこに行ったのかな?)
 そう思いながら、ひこは古びた小屋の戸を押した。
「ただいま」
「おかえり〜」
 家に入る際の習慣がここでも使われるなんてなんとも滑稽だ。
 中にいたライチュウ――あきはばらが、古そうなコンピューター(パソコンではなくて)のキーボードを叩きながらひこに尋ねた。
「どうでした? 収獲はありますか?」
「いや、全然」
「やっぱりそうですか・・・」
 そう言って、あきはばらはひこの方を向いた。
 なぜかバンダナが青色に替わっていた。コートを着ていなければあきはばらだと分からなかったかも知れない。
(・・・つーか、何故コートを着てるんだろ?)
 ひこは、質問してみる事にした。
「何でコートを着ているんですか?」
「何でって・・・脱ぐとすごいから」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・どうしましたか?」
「・・・・・・・・・いや、何でもないです」
 もはや回答不能、突っ込み不可。
 一体・・・何がすごいのだろうか・・・。
「良ければ、コートの中を見ま――」「いえ、いいです」
 改行する間もなく即答する。
「そちらの収獲はどうですか」
 ひこは取り敢えず話題を変える事にした。
「上々です。ちょっとこれを見てください」
 あきはばらはパソコンの画面を変えて、ひこに見せた。
 画面にはカントー地方の地図が映っている。そして、その地図上にはいくつかの赤い印が点滅していた。
「おそらく、これがガムさん達、そしてこれが悠さん達。あいにく由衣さん達の場所は分かりませんが・・・。そしてここの点が・・・・・・」
 あきはばらは、セキチクシティの端にある点を指した。
「私達の場所ですね」
「その通り」
「・・・こんな地図、どっから持ってきたんだ?」
「ドリームメーカーのコンピュータからですが」
「――ハッキングですか!?」
「いや、ログイン」
 大して変わらない気がする・・・。
「まあ、それはどうでもいいとして、問題はここです」
 あきはばらが指した場所は、
「グレンじま?」
 どうでもいい、という台詞に引っかかりを感じつつも結局突っ込まずに、ひこはその場所の名を口にした。
「ここが敵の本拠地だと思います」
「じゃあ・・・これから攻め込みに行くんですか?」
「私達だけで勝てると思いますか?」
「・・・いいえ」
 確かに、ここにいるのはほとんどが戦力外のポケモン達だ。勝ち目があるとは思えない。
「とりあえず、ひこさんを進化させてからですね」
(そうだ・・・私は、デンリュウまで進化することが出来るんだ。いつかのように一撃でダウンするようなことにはなりなくない・・・!)
「ではひこさん、問題です」
 いきなり話を変えてくる。これがあきはばらのペースだろうか。
「はあ、なんでしょうか」
「『ポケ書』の副管理人は、誰ですか?」
「副管理人・・・ですか? 『ポケ書』って、ソアラさんだけで運営しているんじゃないんですか?」
「いいえ、違います」
 そう言って、あきはばらはにっこり笑った。

「副管理人はみんなの良心ですよ」




 クラッシュが、何故だかは分からないがいきなり逃げて行ってしまった事 で、悠達はやっと一息つける状態になった。
 思えばここに来てからというもの、一息つける時間など数えるほどしかなかったのだ。
 そう思いつつ悠が寝転んだ時、目の前に突然ニュッ、とゴース―――ではなく、さっきの戦いでレベルが上がり見事ゴーストに進化した澪亮の顔が現れた。
「うわあぁぁ!!」
 いきなり覗き込まれたのに驚いて悠は飛び上がる。
 間違えて『メガトンキック』のように足を上げて澪亮を蹴ってしまったが、彼女がゴーストタイプだったおかげ で最悪の事態は避けられた。
「なんだよ、人をお化けみたいに・・・」
「というか、お前お化けじゃないか・・・寿命が十年縮まったよ・・・・・・」
 蚊の鳴くような声で悠がぼやく。
 澪亮は一つ溜め息をついた後、まじめな顔になって話し始めた。
「なぁ、俺やお前とかは何とか大丈夫だが、ヒメヤさんやあのノクタスなんかは結構重態だ。確かに、今無闇に動かない方がいいとは思うが、それでもいます ぐ出発するべきだと思うんだ。もち、大怪我人と救護班、あと元気な奴からも何人か守るためにここに残すがな」
 悠は驚いて言った。
「なにもそんな急がなくても・・・。第一、敵の本拠地でさえ分かって――」
「その敵の本拠地が、分かったっつうんだ」
 そう言うと、澪亮は何やら真ん中にカメラが付いている飛行機のような物体を取り出した。
「何コレ?」
 あかつきや223、由衣、愛も二人の周りに集まってくる。
「秋葉さんが送ってきたんだ。ホログラムなんてしゃれたものがついていやがった」
「・・・た? 過去形??」
 ホログラムのあきはばらを真似てか、澪亮は機械的な声を出す。
「『われわれの調査により、敵はグレンじまにいることが分かった。ひこさんも進化したし、攻め込みたいから今すぐクチバに行ってほしい。船が出ているはず だ。それに乗ってグレンじままで行くんだ。では、健闘を祈る! ―――尚、このメッセージは一度聞いた後消去サレ・ル・・・。ブツッ」
 ご丁寧に機械が切れる音まで再現すると、澪亮はふんっと鼻を鳴らした。その時――
「なるほど」
 他の声が割り込んできた。いつの間にか、皆の後ろにヒメヤが立っていたのだ。
「えっ・・・ヒメヤさん!? もう動いていいんですか?」
「あれっ・・・二人とも知らなかったんですか? ディグダマンが、沢山回復アイテムを隠し持っていたんですよ」
 悠は確か、持ってきた少ない荷物はさっきの戦闘でだめになったはずだった事に気がついた。
「いったいどこに?」
 聞き返してしまった悠に、いとも簡単だと言いたげにヒメヤが答える。
「あの頭の頭巾っぽいヤツの中ですよ」
 聞いていた全員が、唖然として固まってしまった。中身がどうなっているのかも、驚きすぎて聞き忘れた。
「取り敢えず、僕を置いていくって話は聞きませんよ。ノクタスちゃんだけはまだ重症なんで、『ポケ書』の住民がついておくそうですが、僕はクチバに一緒に 行か せて貰いますよ」




「急いで下さい!」
 一方、RX達はクチバシティに向かっていた。ワタッコはRXを乗せ、浅目はピジョンへ三度目の『へんしん』をしている。
 ルエルスとルレンは言っていた、他の人達が『クラッシュ』なる新手に襲われている、と。
 急いで、助けに行かなければ――!
「でも・・・良かったな、RXさん。元に戻れて!」
 ワタッコの言葉に、RXは呟くように言う。
「まぁ、ダーク化を自由に出来てしかも理性を失わないようになったのは、いいんですけど・・・なんかイヤなんですよ」
「何故?」
「勿論戦力にはなりますけど・・・最悪にイヤですよ・・・みんなを傷つけたダークポケモンになるんだから・・・」
 浅目の言葉に答えたRXの顔は、険しかった。
 しばしの沈黙の後、浅目が場の雰囲気を和らげるように言う。
「――あ、見えてきた!」
 港の建物の天辺が、ここからでも分かるようになった。
 クチバシティは、もうすぐだ。



 クチバシティ近くの上空・・・。
「はぁ、はぁ・・・」
 まだガムは息が上がったままだった。
「大丈夫ですの?」
 ファビオラが訊く。
「ハイ・・・大丈夫、です。いいから行って下さい・・・」
 ガムは強がりを言った。
 なにせ・・・重傷を負ったガムには、この量では『キズぐすり』が足りないのだ・・・。



「良心、ですか・・・」
「そうです。だからこそ・・・みんなで、ソアラさんに協力するべきです。私達は、いわば『ポケ書』の副管理人、なんですから」
 ひこは少し黙り込んだ後、あきはばらに言った。
「ソアラさんも・・・きっと、ここへ来ているんですよね?」
「恐らくは。『ドリームメーカー』とも何らかの形で関わっている筈ですよ」
「です・・・よね・・・」
 ひこは溜め息をついてから、ふと自分の体を見下ろした。
 薄い黄色のかかった柔らかい綿に包まれた、メリープの姿。
「・・・ところで、私はどうやったら進化できるんでしょう?」
「経験値を積む他、方法はないと思います。まぁ、ポケモンの基本ですね」
「ゲームなら、ポケモンを戦わせるだけなんですけどね」
「今私達はポケモンです」
「そうでした・・・」
 という事は、自分も戦えば進化するんだろうか?
 そう思いながら部屋を見渡す。
 ひことあきはばらの他には誰もいない、オバサナ・・・じゃない、サナ達は情報収集から帰ってきていないようだ。




 クチバシティに向かうファビオラは、ガムの重度の怪我の具合を心配していた。
「ガムさん、『ねむる』をお使いなさい! このままでは、本当に危険ですわ!!」
「・・・そんな事は、いいから・・・早くみんなの所、へ・・・」
 一息で言える言葉の量が少なく、呂律も怪しくなっている。
 ガムは朦朧としてきているのだ。それは、彼を背中に乗せている状態のファビオラからでもすぐに分かった。
「・・・くっ・・・・・・」
「―――ガムさん? ガムさん!?」
 ガムは、遂に気を失ってしまった。
「仕方ありませんわ・・・どこか安全な場所は・・・?」
 ファビオラはそう独りごちながら、近くの人気(ひとけ)がなくてポケモンも少なさそうな林へ緊急着陸し、草むらの上にガムを降ろした。
 そして、綿雲のように大きな羽でガムを包み込むと、透きとおったような美しい声で『うたう』を使った。
(気持ちいい・・・なんだか毛布の中にいるようだ・・・温かい・・・)
 霞む意識の中でそう思う。
 『ハミングポケモン』、チルタリスの子守唄のなか、ガムは彼女にすっかり身を預け、深く深く眠り込んだ。


「・・・ん? あぁ・・・」
 ガムは目を覚ました。
「お目覚めになりましたね」
 そう言うとファビオラは、ガムに被せていた羽毛をそっと持ち上げた。
 ボロボロになっていたのが嘘のように、ガムの怪我はすっかり完治している。それに、なんだか強くなったような気さえ・・・。
「ファビオラさん?」
「心配しましたわ・・・でも、これでもう大丈夫。さあ、先を急ぎましょう!」
 ファビオラは、背中にガムを乗せようとして――
「・・・? どうしましたの?」
 物言いたげにためらっているガムに視線を向けた。
 ガムは、少し照れくさそうに
「ファビオラさんが、なんだかお母さんに見えた」
 と言った。
 ファビオラは優しく微笑みかける。
「フフッ、それはあの子にも言われましたね」
「あかつきさんの事ですか?」
「ええ」
 そこには、『死の歌姫』の面影はもうなく、ジグザグマだった頃のあかつきをマッスグマにまで育てた偉大な母親のようなチルタリス がいた。



「見えましたわ! クチバシティです!」
 そのクチバシティに見える小さな影に、ガムは目を留めた。
「あれは・・・! おーい! ワタッコさーん! 浅目さーん!!」
 ガムとファビオラが地上に降り立つと、ワタッコたちが駆け寄ってきた。
 ―――その中にRXの姿を認め、ガムは僅かに身構える。
 微かだが、普通のポケモンとは違うものを感じた。
 ダーク状態だった時にRXから感じたものと、同じものを。
「!? ・・・RXさん! ダーク状態から『リライブ』出来なかったのか!?」
「ガムさん違う! RXさんは・・・」
 浅目がそう言って止め、これまでの自分達の出来事を一通り話した。
 ワタッコHBがひんし状態の『本物』のジルベールと同化して、全てを引き継いでいたという事・・・。
 『たんじょうのしま』を襲撃したルエルスとルレンの事・・・。
 ダークポケモンでありながら、その力を自由にコントロールできるようになったRXの事・・・。
「僕がいない間にそんなことが・・・」
 ガムはRXを見てうらやましそうにしていた。
 改造されてもその力を自由に使える所が仮面ラ○ダーに見えたからである。おそらくそんな発想をするやつはヒーロー狂の彼ぐらいしかいない。
「みなさん無事に合流できましたね。私は一足先に目的地へ向かいます。あのお方の説得もまだですし」
 ファビオラは大きく羽ばたくと、
「ごきげんよう」
 と言い残し、飛び去って行った。
 ガム達は、そのファビオラの姿を見えなくなるまで見送った。
「・・・さてと、俺達もそろそろ悠さん達の所へ向かおう!」
 と、ワタッコがガムを爪でつかみ、浅目がピジョットに『へんしん』してRXを乗せて移動しようとすると――
「そうはさせませんよ!」
 突然の『ダークミスト』が彼らを襲った!
 RXに倒されたはずのエーフィのルエルスとブラッキーのルレンだ。
「研究所を爆破された上に、ダークポケモンの改造失敗・・・お前達を残りの人と合流させるわけにはいきませんわね。ここでお死になさい!!」
 ルエルスはそう言い放ち、『ダークホールド』でガムとRXをワタッコと浅目からひきはなした!
 二対二へと戦力をかく乱する気らしい。
 ―――しかし前回のバトルとは違って、ガムもRXも驚くほど平然としている。
「それで勝った気なのか?」
「悪いが、僕達はお前達に負ける気はしない!」
 RXとガムのその台詞に、さすがにプライドを傷つけられたのかルエルスとルレンが怒りの矛先を向ける。
「何ですってぇぇぇ!?」
「そのへらず口をたたけなくしてやりますよ!! くらえ、『ダークエンド』!!」
 いきなりダークポケモン最大の技を、ルエルスはガムに、ルレンはRXにくりだしてきた!
 ――が。
「きゃっ!?」
 ガムはRX戦の時とは違って、簡単に『ダークエンド』を回避してしまった。
「いったい何発『ダークエンド』を撃ったと思っているんだ!? 『ダークエンド』なんてRXさんとの戦いの時にとうの昔に見切っているんだ!!」
 確かに『ダークエンド』は命中率60のワザ。乱発したら外れてもおかしくはない。
 その一方で――。
「な・・・何!? 『ダークエンド』を食らっても持ち堪えていられるなんて・・・バカな!?」
 RXはルレンの『ダークエンド』を受けても、ほとんどダメージを受けていなかった。
「知らなかったのか? ダークポケモンにダークポケモンのワザは『こうかがいまひとつ』なんだ! むしろこの身に心地いいほどだぜ!!」
 確かにその通り。ダークポケモンにダークワザはほとんど効果がない。
 そしてガムがRXに向かって叫んだ。
「RXさん! これから僕の言うとおりにしてください!!」
「?」
「僕がRXさんに仕掛けたあの技です!!」
「!」
 RXはピーンとひらめいた!
「一体何をしようとしているかわかりませんが、させませんわ!」
 ルエルスの『サイケこうせん』を難なく回避すると、ガムとRXは『でんこうせっか』をくりだした。ほぼ同時のタイミングだ!
「『でんこうせっか』ごときのワザ、私(わたくし)達に通じるとでも!?」
「笑止!」
 そう言って受けとめようとするルエルスとルレン。
 ガムはややRXより前に出ると、彼に言った。
「今です、RXさん! 『かえんぐるま』を!!」
「分かった!!食らえ、『かえんぐるま』!!」
 そしてガムは、炎をまとって回転してきたRXをそのままガッチリつかんで、特性『もらいび』の効果でエネルギーを増幅し、『かえんぐるま』の勢いでスク リュー回転しながら、
「いっけぇぇぇ!!」
 そのまま突撃した!!
 これは、垂直落下と水平突撃の違いはあっても『ブースター版[ちきゅうなげ]』を相手に叩きつけている荒技だ!
「ぐぎゃぁ!!」
「きゃぁぁ!!」
 ルエルスとルレンは初めて見る技にどうしていいかわからず吹っ飛ばされた!
 二匹はやけど状態になった。が、ガムもRXも炎タイプなので『シンクロ』でやけどが移る事はない。
 そしてRXの『かえんぐるま』、ガムの『かえんほうしゃ』がうなりをあげる!
「ぎゃぁぁぁ!!」
 ルレンスとルレンを今度こそやっつけた!!
「ガムさん! RXさん!」
 『ダークホールド』のとけたワタッコと浅目が駆けつけてきた。
「心配ないですよ! ルレンスとルレンは倒しました!」
「楽勝楽勝!!」
 ワタッコも浅目も、信じられない・・・という顔をしている。
 あれだけ苦戦していたダークポケモンを、この二人はあっさりと・・・。
「そんなことより、早く悠さん達がいる場所へ向かいましょう!」
「あ、ああ。そうですね!!」
「うーん・・・」
 ガムが何やら考え込んでいる。
「どうしたんですか? ガムさん?」
 RXが尋ねた。
「今のワザ、『ブースターローリングクラッシュ』、略して『B・R・C』と命名するのはどうでしょう? 絶対いいですよね! これ!!」
 ・・・ガムの台詞に返答する者は、誰もいなかった・・・。





 ―――翌日、といってもまだ深夜。

 前日――。
 あれからクラッシュがどうなったかは知らない。が、澪亮の『のろい』で、今頃冥府に送られているだろう。
 そしてその後、RXとワタッコと浅目、そしてガムが悠達に合流した。
 今は、港の近くで見つけた空き家で、全員が寝ている。
 朝の一番早いフェリーで、グレンじまに行くつもりだ。
 まだ合流していないひこ達を置いていくのは不本意だが、ここまで集まった以上、合流できるかどうかも分からない者達を待つより、一気に乗り込むほうが良 いと思ったからだ。
 因みに、前日には、ひこは進化している。きっと近いうちにもう一段階進化することだろう。
 今ならそれなりに戦力になるのだが、悠達は勿論そんなことは知らない。


 そして――――。
 浅目は一人眠れず、真夜中の都会へ出歩いていた。
 もっとも都会と言っても街中ではなく港の近くなので、人はいない。
 ――しかし、その日は何かおかしかった。
 浅目はその違和感の元をしばらく考え・・・そして気付いた。
 夜中の不気味な海がただ広がるはずのその場所に、船があったのだ。
 ・・・船の上で、一つの影が動いた。
 影の瞳が、月明かりを浴びてきらりと光る。
 浅目とその者の目が合った。
 浅目はその者が誰なのか知らないが、向こうは浅目を良く知っている。
 ―――それは、キングドラのカールだった。



 カールは苛立っていた。
 昨日、自分が出て行って敵を確実に殺すべきであった。部下に任せたがためにまんまと敵は合流してしまった。
 しかもその部下は、音信が途切れたと思って捜索してみれば、見事に死体になって見つかっている。
 ・・・・・・離脱を指示したカールもかなり愚かなのだが。
 何故そんな指示をしたのかはいまや関係はない。
 クラッシュは、死んでしまったのだから。

 浅目と眼が合ったのは、正にそんな心理状態のときだ。
 同じ四天王であるリディアから逃れた者であり、あらゆる物に変化するという最強とも言えそうな能力を持つこの魔人、なんとこちらの正体に気づいていない らし い。
 これは絶好の機会である。
 クラッシュを失った失態を相殺できるとまではいわずとも、浅目の首は良い手土産になるだろう。
 カールは部下のゴーリキーに命じ、今通り過ぎた浅目の後ろを忍び足で後を追わせた。


(やはり、誰もいな―――・・・っ!!!?)
「うわっ!!?」
 突然その体が宙に浮かび、浅目は思わず声を上げてしまった。
 ――いや、浅目は持ち上げられていた。
 人間体であったため、その体は軽かったのだ。
 そしてゴーリキーは気合一発、渾身の力をこめて浅目童子を海に向かって投げ飛ばす。
「きゃあああっ!!」
 絶叫が夜の闇に響いたが、それも、ドボンッ、という音と共に消えてしまった。

「でかしたっ!!」
 カールは叫んだ。
 水中で、浅目は何かに『へんしん』するだろう。恐らく水中戦に備えた姿に。
 だが『ドラゴン四天王』の水を操る『アクアファイター』であるこの自分に、水中戦で勝てる者などいるはずもない。
 上手くいけば・・・人のままもがき苦しんでいるところを突く事ができるかもしれない。
 水中戦には絶対の自信があるカールは、にやりと笑うとそのまま海に飛び込んだ!


「どこだ! 浅目童子!?」
 カールは暗闇の海中で敵の姿を探した。
 暗闇ではあるが、水中では眼など使わずとも敵の位置ぐらい分かる。いってみれば『気』のようなものを、感じるのだ。
 だから『どこだ』とは言っていても、実際にはまっすぐに浅目のところに向かっていた。
 随分遠いので、結構深いところだ。
 だが、今度こそ逃げられる心配はない。
 浅目は水に姿を変えればこの窮地を逃れられたのではないか、そう思う者もいるだろうが、固体にしか『へんしん』出来ない彼女に、それは出来なかった。
 正に絶対絶命、カールの勝利はもはや確実―――そう思われた。
「見つけたぞ! 浅目童子!!」
 カールがそう叫び、攻撃を仕掛けようとした瞬間、その視界は光に満たされ、その中に小さな影を見た。


 随分遅い。もう三十分は経つだろうか。たった一体の敵を相手に、しかも得意な水中戦を仕掛けているにしては、随分時間が掛かりすぎだ。
 ゴーリキーが船の甲板から海を見下ろした次の瞬間、主人が飛び上がり、船に戻ってきた。
「カール様! 浅目は・・・・」
「殺った」
 キングドラは随分と短くそう答えた。
 普段口数の多い彼にしては珍しいな・・・そうゴーリキーは思ったが、口には出さなかった。
「船を出せ」
 キングドラがそう言うと、
「はっ」
 とゴーリキーが答え、甲板から階段を下りて行った。
 ――そのキングドラが、『へんしん』を使用した浅目の姿であるとは知らずに・・・・・・。

 少しして、船が出航する。
 その行き先は、グレンじま・・・・・・。



 海底には一体の、黒焦の死体があった。
 もはや浮かんでくることもないであろう、カールの姿だった。




 そして、朝。
 合流した悠達は、その日一番のフェリーに乗り込んだ。
 いよいよ敵の本拠地である、グレンじまへと向かうのだ。
 ―――朝になって、浅目の姿が消えていたのには皆驚いて、船の時間ギリギリまで必死に探したが、誰も彼女を見つける事は出来なかった。
 ここまで集まった以上、合流できるかどうかも分からない者達を待つより、一気に乗り込むほうが良い―――この方針を変えない事に異議を持つ者は結局おら ず、一行は心残りながらも浅目を探すのを諦め、フェリーに乗った。

 今は、全員甲板に出て、外の空気を吸っている。
「いよいよですね・・・」
 ガムのその言葉に、RXが短く「ああ」と答える。
 ・・・交わされた言葉はそれだけで、一同は沈黙した。
 その空気に耐えられなくなったのか、あかつきが明るい声を出す。
「気を紛らわすために何かしよう! ええと・・・」
「こうしてはどうだ!?」
 突然、ほとんど全員に聞き覚えのない声が降ってきた。
 一同は不思議そうな顔で上を見上げる。
 ―――ただ一人、その声を知っていた愛は、敵意のこもった目を上に向けた。
 フライゴンが、降りてくる。

「リディア!」
「久しぶりね、そこのサーナイト」
 『砂上の蜃気楼』、フライゴンのリディアだった。
「誰だ!?」
 ガムの問いに、リディアは答えるでもなく鼻を鳴らす。
「そう、お前達には、まだ姿を見せていなかったわね」
「愛さん、あいつは・・・!?」
「『ドラゴン四天王』の一人・・・リディアです!」
「なんだって!?」
「敵か・・・ならば倒すのみだ!」
 RXはそう叫ぶなり、『かえんぐるま』の体勢を取った。標的は、勿論リディア。
 だが、『かえんぐるま』を発射する寸前、リディアは声を上げた。
「ちょっと待ちなさい。お前達は、これを見ても攻撃してくるのかしら?」
 不敵な笑みを浮かべ、リディアは背中から一体のポケモンを降ろした。
「なっ・・・!!」
 RXは、思わず動きを止めた。
 その場にいた全員が、息を呑む。

 ―――ブラッキーの、瑞だった。
 だが、瑞は悠達の事を認識していないようだ。それどころか、その目つきには凶悪な光がこもっている。
 RXが今まとっているよりも、もっと強く濃い、黒のオーラ。体の輪は、黄色よりも濃い鬱金(うこん)色の光を発している。
 ・・・それは、ダークポケモンと化した瑞だった・・・。




・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−
第6章終了! ここまで! わぁお疲れ様自分(爆
・・・ていうか、あと657KB残ってるんですが・・・・・・(汗/ちなみにこれは43KB近く
今回は勝手にエピソードはなくて、勝手にエピソード削りがありました(何だそれ
えっと、実はワタッコ達がクチバに着いたときに、RXがダーク化してワザの勢いで飛翔して岸までたどり着くシーンがあったんです。面白いんで出来れば残したかったんですが、その前に言っていた「皆を傷付けたダークポケモンになるのは嫌だ」と断言しているのと矛盾するので・・・仕方なしに削りました。ごめん なさいRXさん・・・!(やっぱり謝ってばっかりの由衣
あと、オーロラチケットの説明は勝手に加えました。だって、普通に飛んでいって入れる島ならオーロラチケットいらないでしょ?(聞くな
デオキシスとかはあんまり詳しくないんでほんとに勝手です・・・(滝汗
あとあと、もう1個書きたい事があって、皆さんはルレンが一番最初に出てきたとき、性別は♂♀どっちだと思いましたか? これ、編集進めていくにつれて、どうやら♂だと思っている方と♀だと思っている方がいらっしゃるようだということに気付きました(汗
状況を見ている限りでは、私やあきはばらさんは♂、ガムさんやRXさんは♀だと思っているようです。私は出てきた瞬間、『こいつは弟だな』と思ったんです。あきはばらさんも同様なのか、キャラをまとめる文章(『登場人物〜(以下略)』のあの文章、原文かかれてるのはあきはばらさんなんです、知らない方に 注釈)に『弟』って書いてありました。
でもガムさんやRXさんが書かれた文章では、ルレンは完全に女言葉で喋ってるんですよね(汗
・・・・・・私は・・・読み進めていく内に、どっちでもいいなと思い始めるようになったのですが、三章辺りの『登場人物〜(以下略)』で弟って書いちゃっ たんで今更変更するわけにも行かず・・・;; というわけで、ルレンの口調はオール敬語で、文章中で男だと言わせてしまいました。あなたの考えと間違って いたらごめんなさい;;;

これ、段々面白くなってきたでしょう?(苦笑
ポケモンの特性とか見事に使われてて、結構すごいなと思うんです。やっぱり、参加してる皆さん全員が、ポケモンの事良く解ってるポケモン好きですもんね! (ぇ
編集してて楽しいし嬉しいんですよねその辺vv 皆さん頑張ってこの話を終わらせてください!(人任せにするな


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