「食らえ、『りゅうのいぶき』!!」
「きゃぁぁ!」
 ファビオラは倒れこんでしまった。『ほえる』の影響で顔が青ざめている・・・いや、元々青かったが・・・。
「どうしよう・・・これじゃ、ゼロを倒せない・・・」
 瑞がRXにささやく。
「そんな事言われても・・・・・・あの作戦破られちゃ、俺にもどうすりゃいいか分かんない・・・」
 ゼロを倒そうとしても、向こうは霊魂を『みがわり』に出来る。いたずらにこちらの体力が減るだけだ。
「何か・・・何か倒す方法があるはず・・・」
 浅目が呟くが、
「俺を倒す? そんな事、出来るわけないだろう! この精神世界(せかい)は俺の支配する世界だ、ここにいる限りお前らに勝ち目はない!」
 ゼロに一笑に付されてしまう。彼を倒せないこの状況では、反論も出来ない。
 RXはゼロをにらみつけた。
 はっきり言って、殴り込みたい気分だ。殴りに行きたい。殴ってやる!
「ちょっ、RXさん落ち着いて!」
 瑞がRXを抑えた。
「私達だけじゃ、倒せないかもしれないけど・・・さっきゼロが掴んで踏み潰した・・・」
「霊魂、か」
 浅目の言葉に、瑞は頷く。
「そう、その霊魂達に、何とかしてもらえないかと・・・」
 RXは辺りを見渡した。あちこちに浮かんでいる、数え切れない数の霊魂・・・・・・。
「使うって言い方はしたくないな・・・手助け、してもらうってとこか?」
「そう、そんな感じ!」
「でも・・・」
 苦しそうな顔をして飛ぶ、たくさんの霊魂達。
「あんなに苦しそうな顔をして・・・。彼らは、自分達の事で精一杯なんじゃないか? そして、訳も分からず苦しんでいる内に、ゼロの犠牲となって次々『み がわり』にされていく・・・・・・」
 RXと瑞は、浅目のその言葉に黙り込んでしまう。
 と・・・三人の傍に、ファビオラが降り立った。
「ファビオラさん!」
 顔色が元に戻っている・・・いや、元々青かったけれども。
「彼らが、ゼロを敵と、私(わたくし)達を味方と判別して、私達に力を貸す気になってくれればいいのですが・・・」
 ふわり。
 霊魂が一つ、彼らの方へ向かって飛んできた。
「な、何だ!? 襲ってきたのかっ!?」
 RX達は慌てるが、その霊魂は襲うような気配を見せない。
 四人の周りをぐるぐる回り、RXの足元に落ちていたポロックの欠片の方を指している・・・ような気がする。
「あっ!?」
 見ようと思えば、その影のような霊魂は見えなくもなかった・・・・・・ゴルダック、に。
「もしかして・・・神田さん!?」
 そう、その霊魂は、神田泉子だったのだ。
「あの時彼女が無になったのなら・・・説明は付きますわ」
 ファビオラが言う。
「ふん、神田の霊魂か・・・そんなもの、今更何の役にも立たん! お前ら、何度も言うが、おれを倒す方法はない! さっさと諦めるんだな!!」





 澪亮達は、地面に降り立ち――
「うわっ、ここどこ?」
 由衣の声で、皆辺りを見渡した。
 どう見たって、全然ふたごじまと関係ないところにいる。
 無機質な白い壁の、大きな建物。ガラス張りの扉があり、中を覗き込むと無駄に迷路のようなつくり、そしてたまにバチバチとショートする電流が見える。
 ・・・・・・無人発電所、だ。
「最初、ふたごじまに行くとか言ってなかったですか? まぁ、ひこさん達がそこにいるとは限りませんけど・・・」
「いや、秋葉さんの怨念を感じたような気がしたんだが・・・」
「怨念って・・・秋葉さんまだ死んでないで」
 そう呟いて、223が辺りを見渡す。『無人』発電所だけあって、周りには他に誰もいないようだ。自動ドアと思われた発電所の扉は、硬く鎖されていて開か なかった。
「まぁ・・・取り敢えず、戻ったらどうや?」
 223の発言に、愛と由衣は反論しなかった。三人は澪亮を見る。・・・が、なぜか澪亮はついと視線を逸らした。
 一抹の不安を覚え、由衣が声を掛ける。
「澪亮さん? 戻れるわよね・・・?」
「・・・・・・秋葉さんの怨念を頼りにふらふらっと飛んで来ちまったから・・・帰り道確認してねぇ・・・」
 一瞬の沈黙の後、愛が澪亮に食って掛かった。
「澪亮さん!! どうしてくれるんですか!?」
 今度は、育児に疲れ、ストレスが爆発した母親みたいな目をしている・・・。
 ささっと、由衣の後ろに隠れる澪亮。
「ちょっ、澪亮さん!!」
「あんたエスパー技無効に出来るんだろ! ちょっと隠せ!」
「嫌よ!」
「由衣さん、ちょーっとどいて下さい・・・今日の私の技は強めですよぉ・・・?」
 不毛になりかけた言い争いを、223がようやく止めた。
「しゃあないやん、澪亮さんが帰れへんのやったら。今は何よりも、秋葉さんとひこさんを探す事が先決や」
 正論を言われ、澪亮と愛は一旦争うのをやめた。
「じゃあこれからどうしよう・・・愛、どう? 帰れそう?」
 突然指名された愛は、大慌てで反論する。
「ええええ!? 私に『テレポート』をしろと!? 日本の地理は得意でも、ここの地理はダメなんです!」
「でも愛、いつだったか行った事がある場所なら『テレポート』可だって言ってなかったっけ?」
「ダメです〜っ! ここの地理考えると頭真っ白になっちゃって、どこに行くかのイメージが出来なくて・・・!!」
 四人は沈黙した。
「・・・・・・でも愛、貴女に頼るしかないみたい・・・出来ないかしら?」
「・・・分かりました、分かりましたよっ! もしかしたら変なところ行っちゃうかもしれませんが、その辺は承知して下さいね。私じゃなくて、澪亮さんを責 めて下さい!」
 完全に澪亮に責任を押し付けると、愛は三人に手を差し伸べた。
 片手で223の手を取り、片手を由衣の首に回す愛。澪亮は、223のもう片方の手に捕まった。
「それじゃあ、行きますよ・・・!」


 一行は、元のグレンじまにたどり着いた。
「・・・・・・着いた・・・」
 愛が大きく息を吐き出す。
「良かったぁ・・・もしかしたら、みなみのことうとかに飛ばされて帰れなくなってたかも知れないんですよ?」
 その言葉を聞いて、残り三人の顔が青ざめる。みなみのことうに一人ぼっちでいる姿を想像してしまったのだ。
「・・・じゃあ、今度は地理に頼らずに、あの時みたいにあきはばらさん達の顔を思い浮かべてやったらどう?」
「はいはい。やりゃーいいんでしょ!」
 愛は段々やけになってきていた。
「行きますよ!」


 そして四人は・・・・・・無人発電所に、着いてしまった。
「ふっざけんな! 何でまたここに着いちまったんだよ!」
 今度は澪亮が、愛に食って掛かる。完全に、先程の失敗は棚に上げて。
「私はちゃんとひこさんを思い浮かべてやりました!!」
「じゃあこの状況は何だ、あの二人が悪いのかっ!?」
「今この場にいない人に責任転嫁しないで下さいよ!」
 ぱんぱん、と223が手を打ち鳴らす。
「はいはいそこまで。もう一度お預けや。―――ところで・・・」
 223はちらっと後ろを見る。由衣が、そこにいた。
「何で由衣はそんなところにおるん?」
「だって、澪亮さんの盾にされるの嫌なんだもん」
 そういう彼女だって今、自分の事思いっきり盾にしてただろう・・・・・・。そう思うと、何となく複雑な心境の223。
「・・・・・・私達、戻れるのかしら・・・」
 ぼそっと由衣が呟く。
 澪亮は、ここからの帰り道を確認するのを忘れたと言った。
 愛は、この世界の地理は苦手で、『テレポート』で行くべき場所が想像できないと言った。
 ――先程のみなみのことうの想像が、今度はよりリアルになって四人にのし掛かってくる。
「愛・・・グレンじまの光景想像して」
「え・・・・・・?」
「いいからっ! まだ記憶が新しいうちに!」
 由衣に急かされるように、愛は眼を閉じた。
「その状態保って、私達連れて『テレポート』使って!」




 一方、悠達突入部隊は、十一階へと辿り着く。
 そして、五人は十一階の部屋の様子に驚いた。
 部屋の中央にある階段の周囲に床を残すのみで、辺り一面に悠の背丈の倍はありそうな草が生えていたのだ。
「これは、一体・・・?」
 悠が呟く。
「この部屋のポケモンが有利になるようなつくり、なんだろうな」
 ワタッコの言葉に、あかつきが彼を見上げた。
「でもワタッコ、オイラこんな部屋記憶にないよ・・・?」
「確かこの辺りは、立ち入り禁止になっていたからな。まさかこんなつくりになっていたとは・・・」
「――この部屋のポケモンが有利になる環境って事は、この部屋の奴は草タイプなんでしょうか?」
 ヒメヤの問いに、ワタッコは頷く。
「恐らく。ただ、この草を焼き尽くしてしまえる炎ポケモンという可能性もあるが、な」
 それでも、自分達がしなければならないことは一つ。たった一つだ。
 先へ、進もう。
 そう思って、悠は草を掻き分けようと手を伸ばし――
「っつ!」
 その手に走った鋭い痛みに、慌てて引っ込めた。
「悠さん!?」
「な、何だこの草・・・すごく硬い・・・?」
 悠の腕を見ると、赤い線が一本走り、血が滲んでいる。
「どうやら・・・これ、草じゃないようですね。草みたいに緑色に彩色してあるけど・・・金属だ」
 ヒメヤが、草で手を切らないよう慎重に触って、そう結論付けた。
「先程の認識は、改めないといけないようだな」
 ワタッコの言葉に、ガムが頷いた。
「そうですね。この部屋のポケモンは、こんなに鋭くとがった金属の中で動いても傷つかない――」
 ガムの言葉より早く、『草むら』から何かが飛び出して、五人に襲い掛かる!
「――鋼タイプ!」
「『きりさく』!」
 そのポケモンが繰り出した『きりさく』を、悠達は飛びずさって交わした。しかし、バランスを崩してたたらを踏み、背後の草の中に突っ込んでしまう。
 途端、全身に走る激痛。
「ぐぁっ・・・!」
 そのポケモン――ハッサムは、悠達を見てにやりと笑ったように見えた。
「へぇ、お前達ムゲンとコゲン倒したのか・・・結構強いんだな」
「くそ・・・『ほのおのうず』!」
 悠は『ほのおのうず』を繰り出すが、ハッサムは軽々とそれを避けて『草むら』に飛び込み、姿を消す。炎は『草』を揺らすが、燃やす事はない。
「俺を捕まえてみろよ!」
 いっそ楽しげとも取れる挑戦的な声が、どこからともなく響く。




 由衣の言う通りに愛は『テレポート』を使い、それでも何度か失敗し て、ようやく四人はグレンじまに戻って来られた。
 海を見ると、水平線のかなたに真っ赤な夕日が沈もうとしていた。もう夕方だ。
「もう夕方ですね・・・」
「悠達は今、どの辺まで上ったんだろーな」
 澪亮が、そう言って塔を見上げる。
 ふと、先程見た港の方に目を向けた由衣は、船がそこにあるのに気がついた。
「ねぇ、見て、船よ!」
「ちょっと様子見に行こうぜ。秋葉さん達の居場所の手がかりがつかめるかも・・・」
 四人は船に向かって歩いて行く。
「うわーい! 一番乗りっ!」
 愛がはしゃぎながら船に乗り込んだ。
「おい、お前ら何者だ!?」
 ――その船に乗っていたのは、沢山のゴーリキーだった。
「ひぃふぅみぃ・・・」
 ぼそぼそ口の中で呟いて、由衣がその数を数える。
 ゴーリキーのうちの一体が、四人の前に進み出た。
「何者だと訊いて――」
「ちょっと動かないでよ! 数わかんなくなっちゃうじゃないの!」
 由衣の大声でゴーリキーは一旦動きを止めたが、思いなおして四人を睨みつける。
「見覚えがない・・・『ドリームメーカー』のメンバーではないな!?」
「分かってんなら訊くなよ、何者かって!」
 澪亮は声を張り上げると、ゴーリキー達を見渡した。
「俺達ぁこの船に用があんだよ・・・雑魚は引っ込んでろ」
 かなり低いどすの聞いた声で言う澪亮。ゴーリキー達は一瞬ひるんだようになる。そして澪亮は、愛達ですら予想外だった言葉を口にする。

「この船は俺達が頂く!」

「はぁ? あんさん、何考えとんの!? ハイジャックか!?」
「こいつらを蹴散らしてこの船を乗っ取り、秋葉さんとひこさんを探す為に使わせてもらうだけだ!」
「乗っ取って自分らの目的に使うって・・・それをハイジャックと言うんじゃないんですか!?」
「ちなみにハイジャックって飛行機に使うのよ。船の場合は・・・シップジャック??」
 澪亮の発言で、かえって緊張感をなくした四人。ゴーリキー達も、あっけに取られて立ち尽くしてしまう。
 しかし、先程のゴーリキーの声で持ち直した。
「ひるむな、かかれ!」
 全員が、四人に向かって飛び掛る!
「きゃぁっ!!」
「うわっ!」
 四人はゴーリキー達を避け、船の真ん中まで走った。
「今あいつら動いちゃったから正確とは言いがたいけど・・・多分、全部で二十体よ」
「二十体か・・・割り切れるな。じゃあ一人あたりノルマ五体!」
「・・・・・・澪亮さんだけで十体はいけるんじゃないですか?」
「あと、私一人で格闘タイプ五体はきついって事突っ込んでおきたいんだけど」
 船の中は部屋のようになっている。船尾側に船の舵を取るために使うらしい機械が、そして船首側には三つの画面とパネルが付いていた。
「あれ使えば・・・ひこさん達の居場所、分かるんじゃないかしら?」
「よっしゃ、後であれ使わしてもらお。取り敢えず今は――」
「邪魔者排除、だ!」
 澪亮はそう叫ぶなり、背後に忍び寄っていたゴーリキーを振り返った。
「げっ――」
「『おどろかす』!」
「ぐわっ!」
 『おどろかす』でひるんだゴーリキーに、愛が迫る。
「くらえ! 必殺オバサナ直伝『かみなりパンチ』!!」
 そのゴーリキーが倒れたのを合図にするかのように、他のゴーリキー達が動き出した。
「愛・・・いつの間にそんな技を・・・」
「直伝っていうか、ちょっと真似させてもらっただけですv」
 愛はにこやかにそう言うと、一転した怒りの表情をゴーリキー達に向けた。
「雑魚に用はねぇって何度も言わせるなっ! 『サイコキネシス』!!」
「愛・・・口調変わってるで・・・」
 今の『サイコキネシス』で何体かはそのまま戦闘不能になったようだ。しかし、まだ十体あまりが残っている。
「うっわ、しぶといなぁこいつら・・・」
「ん〜・・・どうしよう・・・仕方ない、この技は使いたくなかったんだけど・・・・・・由衣さん、澪亮さん、私がこの技使ってる間、あいつらを抑えといて ください! あと、223さんは下がってた方がいいと思います」
 腑に落ちないながらも、言われた通り澪亮と由衣はゴーリキー達の中に突っ込んでいく。
「『あやしいひかり』! ――愛さん、何するつもりなんだろうな?」
「『シャドーボール』! ――でも、223を下げたって事は多分・・・」
 そして愛は、何か特殊技を繰り出した。
 まるでまわりにハートマークが浮いているような雰囲気、これは・・・
「『メロメロ』!」
 RXの専売特許、『メロメロ』を愛は使用したのだ。
 ゴーリキー達はメロメロ状態になり、攻撃できなくなってしまう。
「おっしゃぁ、後は俺の独壇場! 『ナイトヘッド』!」
 攻撃を躊躇するゴーリキー達を、澪亮は容赦なく『ナイトヘッド』で倒していく。
 だが・・・最後の一体が、澪亮の技を避けて攻撃態勢を取った。
「『メロメロ』が効いてないですね。♀、って事でしょうか?」
「おるんやな・・・ゴーリキーの♀って・・・」
 そのゴーリキーは、先程の『サイコキネシス』でだいぶ弱っているようだ。澪亮がゴーリキーに詰め寄り、胸倉を掴む。
「おい! 貴様、秋葉さんとひこさんの居場所を教えろ!」
 しかし、ゴーリキーはふんと鼻を鳴らすだけだった。
「教えるわけないじゃない! 殺したいなら殺せばいい、でもこの船の操縦方法も、あんたらの仲間とやらの居場所も教えない!」
 ずいぶんとさばさばしている。澪亮は一旦間を取り、いぶかしむように彼女を見た。
「お前・・・命の危険分かってるよな?」
 見渡せば、推定十九体のゴーリキーがあちこちに転がっている。ただ気絶しているだけの者も・・・命を落とした者も、いるだろう。
「少なくとも、あんたよりは分かってるわよ」
 ゴーリキーはにっと笑うと――すうっと大きく息を吸い込んだ。
「格闘は必ずしもゴーストに、エスパーに弱いとは限らない・・・『かえんほうしゃ』!!」
「うげっ!?」
 澪亮は慌てて攻撃をかわした。ゴーリキーは体勢を立て直す。
「まずい・・・くそっ、格闘タイプが炎の技なんか使うんじゃねぇよっ!!」
「予想外やな・・・」
「『かえんほうしゃ』!」
 再び彼女は『かえんほうしゃ』を放った。
「うわっ――・・・あれ?」
 しかし、それは四人に向けられたものではなかった。船首側へ・・・あきはばら達の居場所の手がかりになりそうなパネルと画面のついた機械へ、放ったの だ。
「まずいわ! あれ壊されたら、ひこさん達の居場所が分からなくなっちゃう・・・!」
「くっそ、止めなきゃ――って、愛さん!?」
 愛が、機械の前に立ちはだかる。
「『ひかりのかべ』!」
 透明な壁が出現し、炎を遮る。しかし、炎の勢いは弱まるどころかますます強まり、愛は少しずつ押されていってしまう。
「『ひかりのかべ』は、特殊攻撃の威力を弱める・・・でも、0に出来るわけじゃないわ!」
 愛へのダメージは、避けられない。
「愛っ!」
 由衣はゴーリキーへ向かっていった。
「『とっしん』!」
 『とっしん』でゴーリキーを突き飛ばし、炎の軌道を逸らす。
「ちっ・・・何をするのっ!?」
「それはこっちの台詞よ!」
「そうだそうだ! 俺達の邪魔すんなっ、俺達ぁ忙しいんだよ!」
 澪亮の発言に、ゴーリキーはふっと笑う。
「その忙しいあんた達を足止めするのが、私達の役目なのよ。あんた達をここで足止めし、合流するのを避ける・・・・・・たとえ、私達の命に代えたっ て・・・ね」
 四人を倒す事ではなく、足止めする事が目的。それは、四人を倒せないと分かっているから・・・?
 それでも、戦うのだ。ゴーリキー達は。『ドリームメーカー』の、下っ端達は。
 ゴーリキーは、四人に突っ込んで行く!
 標的は・・・人間の223と、悪タイプの由衣。
「『クロスチョップ』、受けてみなさい!」
「くっ・・・『シャドーボール』!」
 由衣の『シャドーボール』を受けても、ゴーリキーはひるまない。
「効いてないで、由衣!」
「じゃあ、これはどうかしら・・・!?」
 そう言うと、由衣は思いっきり吠えた。その声の大きさ、その勢いに、澪亮達ですら思わず腰が引けてしまう。
 ゴーリキーの動きは、完全に止まっていた。
「こ、これは・・・『ほえる』!?」
「そう。相手の戦意を喪失させる技、よ!」
「じゃぁ後は俺が! 『ナイトヘッド』!」
 澪亮の『ナイトヘッド』が炸裂! ゴーリキーは、ゆっくりと床に崩れ落ちた。
 その時、彼女が床に手を這わせ、板をめくってその下のボタンを押したのに、誰も気付かなかった・・・。
「あ、見て下さい!」
 愛が死守した機械の画面が、ぱっと映る。
 真ん中の画面には、グレンじま周辺の地図が映っていた。
 グレンじま、ふたごじま、それから――
「ちょっと待った! おい、見ろよ!」
 ふたごじまの所に、なにやら文字が書かれていた。
「『Hiko』と、『Akihabara』・・・ひこさんと、秋葉さんだ!」
「って事は、二人はふたごじまにいるんでしょうか・・・?」
「そうらしいな! 俺達の判断は間違ってなかったって事だ!」
「・・・結局、ふたごじまには行けんかったけどな」
「今度こそ行ってやらぁ! 野郎共行くぜ! オォ〜〜〜!!」
 またしてもテンションの上がる澪亮。
「でも、この船どうやって動かすんでしょうか?」
 操縦者だったゴーリキーは、全員が床にのされている。船の操縦方法を知る方法などない。
 由衣が、船尾の方の機械に近付いた。
「多分、この機械で動かすのよね・・・。ねぇ、適当にボタン押していい?」
「なっ、適当って――」
「あ〜、OK〜。きっと大丈夫だろ、由衣さんの勘を信頼してるぜ」
「澪亮さん!」
「万が一自爆ボタンとか押しちまったらあいつに責任押し付けようぜ」
「・・・・・・そういう事ね・・・」
「ってかそんなボタンがあったら責任如何(いかん)の問題じゃなくなります!」
 しかし、その機械を動かさなければ船は動かない。由衣は、鼻先で一つボタンを押した。
 ぶいん、と音がして機械が動き出す。
 合成音が、船のどこかから響いた。同時に、右の画面が入力画面になる。
『イキサキヲ ニュウリョク シテクダサイ』
「ほぇ〜。最近の船は進化してんな〜」
「もうこれ、進化してるのレベルじゃないやろ・・・」
 ぼそぼそ呟きながらも、223はパネルに手を伸ばした。キーボードはどうやら、普通のパソコンと同じつくりになっているようだ。掲示板の常連としては、 使いやすい事この上ない。
「ふ、た、ご、じ、ま、と」
『イキサキヲ ケンサクシテイマス・・・・・・イキサキ カクニンデキマシタ ダイニボタンヲ オシテクダサイ』
「第二ボタン? 制服のあれか?」
「・・・澪亮さんがいうと『征服』に聞こえるのは何でや・・・」
「気のせいだろ! 第二ボタン・・・おう、書いてあるぜ! これか?」
 澪亮はボタンを押す。機械音が響いた。今度は、船の奥底から響くような音・・・船が、動き出したのだ。
『シュッパツ シンコウ!』
「はぁ〜・・・これで、やっとあきはばらさんらに会えるで・・・」
 223が溜め息と共に言った。
「何か、ここまでのプロセスがものすごい長かったですね・・・」
「ルンパッパとスリーパーでしょ、私達の苦手な技使うアサナンでしょ、炎技使用のゴーリキーでしょ・・・。私達ものすごく頑張ってるわね〜」
「それにしてもさぁ、このゴーリキー達どうすんだよ? 結構グロいぜ」
 澪亮の言う通り、そこには見るも無残なゴーリキーが推定二十体転がっている。
「・・・澪亮さん? 顔笑ってんで?」
「ん? 気のせいだねAHAHAHAHA」
「まぁ・・・ほっといていいんじゃないですか?」
「いいのね・・・」




「うわぁぁっ!!」
「あかつきさん!」
 赤い影に突き飛ばされ、『草むら』に倒れこんでしまったあかつき。悠は辺りに視線を走らせるが、その赤い影・・・ハッサムの姿は見えよう筈もない。
 ハッサムはどこからともなく現れ、彼自身の技にプラスして『草むら』でダメージを与え、確実に悠達の体力を削っていく。階段の辺りから動けない悠達に、 勝機はなさそうにも思えた。
「皆さん・・・僕に、考えがあります。耳貸して下さい」
 ヒメヤが、そう言うが早いか両手で悠とガムを引っ張った。あかつきとワタッコも、ヒメヤの傍に寄る。
「―――で、どうですか?」
「分かりました、やってみましょう!」
 ガサゴソいう音が、ふっと止んだ。訪れる静寂。
 ・・・・・・痺れを切らし、悠が叫んだ。この作戦は、敵が出て来なければ意味がない。
「くそっ・・・出て来い、ハッサム!」
「俺にはレオーノっていうちゃんとした名前があるんだよっ」
 『草むら』からはちゃんと答えが返ってくる。
「レオーノ、出て来い!」
「やだね。お前らから見たら確かに卑怯な戦い方かもしれないけど、これが俺の戦い方だ!」
 という事は、彼には卑怯な手だという自覚があるのだ。それでも、彼はその手で戦おうとする。それ以外の戦い方を、知らないわけはないのに。
 悠が黙っていると、レオーノは更に続ける。
「俺はお前達を倒す為に戦うんだ、戦い方なんて関係あるか!」
「・・・・・・レオーノ、本当に・・・それで、満足してるのか?」
 突然、ガムがそう問うた。レオーノは答えない、答えに詰まっているのだ。
 長く考える必要がある問いではない、選択肢は「YES」か「NO」のどちらかだ。
(レオーノは・・・「YES」と答える事を、躊躇っているのか・・・?)
「それなら・・・どうしてお前は戦うんだよ?」
 悠の問いに、一瞬間があった後、大声で反論が返って来る。
「じゃあ逆に訊く、お前らは何で戦ってるんだよ!?」
「それは、僕らの仲間を・・・この世界を、お前らから守る為だよ!」
「・・・お前は、それが正しいと、正義だと思ってるんだろ?」
「当然だ!」
 レオーノは、悠の断言にもひるまず、続けた。その声は、強いけれどどこか悲痛に響いた。
「それと同じだよ、俺も。俺は、『ドリームメーカー』のやってる事が正しいと、正義だと信じてる。その信念の所為でお前らに負けるような事になっても、俺 は構わない・・・俺は、それ以外の『正義』を知らないから・・・っ!」
 がさっという音がしたかと思うと、悠の左手からレオーノが飛び出す。
「だから俺は戦うんだよ! 『いあいぎり』!」
 悠に向けて放たれた『いあいぎり』――その攻撃から悠をかばうように、ヒメヤが立ちはだかった。
「『リーフブレード』!!」
 ヒメヤの刃が、レオーノの鋏を受け止める。
「くっ・・・」
 レオーノがヒメヤから離れようとした、その瞬間だった。
 ばぁぁぁん・・・と大音声が響き、部屋に外の光が差し込む。
「なっ・・・何だ!?」
「やった、ナイスワタッコさん!」
 空の飛べるワタッコが『草むら』の上を壁まで飛び、ヒメヤがレオーノを受け止めてその動きを封じるタイミングを見計らって壁を『ゴッドバード』で壊した のだ!
「オイラの出番だね! 『にほんばれ』!!」
 あかつきの叫び声と同時に、壁の大きな穴から太陽の光がさんさんと照りつけた。金属で出来た『草むら』は、その陽光を反射してぎらぎらと輝く。
「ま、まぶしい・・・!」
 そのまぶしさに耐え切れず、レオーノは顔を背けて眼を閉じた。
 その隙を、ずっと狙っていたのだ。悠とガムが見逃すはずはない。
「『かえんほうしゃ』!!」 ×2
 二人分の『かえんほうしゃ』がレオーノに炸裂、効果は抜群だ!
「ぐわぁぁぁっ!!!」
 レオーノは叫び声を上げ、どさっと崩れ落ちた。
 悠は彼に近付き、そっと覗き込んだ。
「やられちまった、な・・・・・・。やっぱり相当の、強さだ・・・あいつらを倒しただけは、あるよ・・・・・・」
 『草むら』に大の字に倒れたまま、にっとレオーノは笑う。
「・・・・・・ワカシャモ」
「悠だ」
「悠・・・。俺はな・・・元々、バトルが好きだった・・・・・・。戦うたびに強くなって・・・新しい技覚えて・・・それで、強い奴と戦って・・・・・・。 そういうバトルが、好きだったんだ・・・・・・」
 先程の、あの鬼ごっこ感覚の楽しそうな声。
 元々、バトルが好きだった。
「でも・・・・・・俺は、『ドリームメーカー』の『正義』を・・・知ってしまった。俺は・・・・・・そのまま、『ドリームメーカー』の『正義』に・・・従 うようになった・・・」
 悠は、どきっとした。
 吹っ切れた筈の気持ちが、僅かに揺らぐのが分かる。
「それでも、僕はこの世界を守りたい。『ドリームメーカー』が正義だとは・・・思えない」
「俺も・・・お前らが正義とは、思えない・・・・・・そう言ったら、どうだ?」
「・・・っ・・・」
 レオーノは一息つき、天井を見上げた。
「結局・・・気の持ちようだよな、正義なんて・・・。そいつの気持ちによっては・・・どんな考え方でさえ・・・・・・正義に、なるんだもんな・・・」
「レオーノ・・・」
「でも・・・久々に楽しいバトルだったよ・・・・・・。最期に・・・俺からの、餞別」
 レオーノは、鋏をひゅっと振り上げた。
「『つるぎのまい』・・・そして・・・」
 今度は逆方向に、さっきより強い力で鋏を振り下ろす。
「『いあいぎり』」
 あれほど硬かった『草』が一瞬で刈り取られ、一本の道が開けた。その先には、次の階へと通じる階段が見える。
「行けよ。お前らの言う『正義』の正しさ・・・証明して来い」
 そして、レオーノの頭は力を失い、がっくりと垂れた。




「なぁなぁ、まだ着かへんの? おっそいっちゅーねん!」
 223の問いに、コンピューターは律儀に答えた。
『モウスグ トウチャクシマス』
「もうすぐってどんくらいだよ?」
「――あ、見てください!」
 愛が、船の前方を指す。
 島の姿が、見え始めていた。
「あれだな・・・ふたごじま」
「ようやく目的地到着ね」


「秋葉さーん! ひこさーん!」
「いたら返事してくださーいっ!!」
 四人は島の外側をぐるっと回りつつ、二人の姿を探す。しかし二人の姿はおろか、他のポケモンの姿すら見つからない。
 勿論、『他のポケモン』は皆ひこに倒されてしまっていたのだが、そんな事をこの四人が知っているはずないのだ。
「う〜ん・・・なんやここは、無人島か?」
「無人・無ポケモン島・・・が正しいわね」
「でも、こんなに探してもいないなんて・・・」
「なぁなぁ、俺腹減った・・・」
「今はそれどころじゃないですよっ! あきはばらさん達探さなきゃ・・・!」
 愛はそう言うが、澪亮はそこから一歩も動こうとしない。・・・いや、彼女は浮いているので『一歩』という言い方には語弊があるのだが。
 ・・・と、空から何かが舞い降りてくるのが見えた。
「なぁ、お前らもしかして、ライチュウとモココの二匹連れ探してんのか?」
 キャモメ、だ。
「おうよ! あんさんなんか知ってんのか?」
 そのキャモメは、四人の傍まで降りてくると、砂浜近くの岩にとまった。
「あいつらは、もうこの辺にはいねぇと思うぞ。さっき見たけど、ゴーリキーが見張ってるとこから奥の方に入ってって、見えなくなっちまった。確かあれはグ レンじまに通じてる道だから、今頃グレンじまにいる筈だ。ありゃぁ、『ドリームメーカー』の裏口だからな」
 四人は思わず顔を見合わせた。もしキャモメの言ってる事が正しいなら、自分達はあきはばら達と完全にすれ違ってしまった事になる。
 それにしても・・・・・・こいつ、何者?
「あなたは一体・・・?」
「俺か? 俺ぁあちこち飛んで旅してるんだけど、最近はこの辺に住み着いてるんだよ。『ドリームメーカー』の奴らが出入りするから、あいつらの話聞いて りゃ大体は分かるんだよな。最も、俺は奴らはちょい苦手だけどな」
 だから、話聞く限りでは『ドリームメーカー』に反逆しているらしい、あのライチュウとモココに手を貸したくなるんだよ。そう言って、キャモメは四人を見 渡した。
「お前らも、この島で迷ってるって事は、奴らの仲間じゃないんだろ?」
「ああ。俺達は、秋葉さんとひこさん・・・そのライチュウとモココの仲間だ」
「やっぱりな」
 キャモメは、ばっと翼を広げる。
「兎に角、ライチュウ達は少なくとも、もうこの辺りにはいないと思うぞ」
「あなたは・・・これからどうするの?」
「そろそろここも引き時だな。俺はまた新しい居場所を探しに行くよ。じゃな。応援してるぜ!」
 その言葉を最後に、キャモメは飛び立ち夕焼け空に消えていった。
「ありがとうございました〜っ!」
 澪亮達はそれぞれキャモメにお礼を言い、それから・・・額を寄せて再び話し合った。
「って事は何だ、秋葉さん達は今頃俺らと見事にすれ違ってグレンじまにいる、って事か?」
「私達の苦労、なんだったんでしょう・・・最初からグレンじまで待ってれば・・・」
「取り敢えず、グレンじままで帰りましょ」
「せやな」
 四人は、船の所まで戻る事にした。




 その頃、あきはばらとひこは、無人発電所の最も奥にある箱のようなも のに閉じ込められていた。
 六本の柱で組まれていて、外が透けて見える。どうやら、『バリアー』や『リフレクター』や『ひかりのかべ』や『ミラーコート』etc・・・を組み合わせ て出来ているものらしい――というのが、あきはばらの見解だ。
 二人が引っかかったテレポートトラップは、この場所に通じていたのだ。
 ――そう、澪亮や愛が無人発電所に来てしまったのは、他でもなくあきはばらとひこがここにいたからなのだ。
「秋葉さん・・・」
 ひこがおずおずとあきはばらに声を掛ける。
「一体これから、どうすればいいんでしょう?」
「そうですね〜・・・。さっき澪亮さんの叫びらしきものが二回ほど聞こえたんですけど、二度ともここには気付かなかったみたいですね」
 ・・・・・・気まずい空気が流れる。
「――うぅ〜・・・。何で、何で皆さん気付かないんですかぁ〜!!?」
 ついに耐え切れなくなってひこが大声を上げる。しかし、その声は空しくバリアの壁に跳ね返り、箱の中に反響するだけ。
 どうやら、内側からの声は外には届かないらしい。外側の、電気がショートする音は良く聞こえるのだが・・・。
 しかし、ひことは対照的にあきはばらは落ち着いた、いっそ落ち着きすぎとも思える声で応じる。
「無理もないでしょう。ここは、放っておかれている所為で却って目立たなくなっていますから」
「―――放っておかれている、って?」
 あきはばらの言い方には不安を覚えたが、かといって聞き返さないわけにはいかない。
「だって、ほら。野生のポケモンは見えますけど、私達の見張りらしいポケモンはいないじゃないですか」
 しばしの沈黙の後、あきはばらが続けた。
「どうやら、トラップだけ外し忘れたかなんかで作動してしまったようですね」
「・・・って事は、誰も知らない!? まさかこのままだと――」
「飢え死にしますね」
 フッという笑みと共に、残酷な事実を突きつけるあきはばら。
「そ、そんなの嫌〜〜〜っ!!! 敵でも誰でもいいから誰か来て〜!!!」
 叫んだ声が箱の中に響く。
 実のところ、トラップに引っかかった事を示す紙が、船のコンピューターからプリントアウトされ、ゴーリキーの手に渡っていたはずなのだが、ゴーリキーで さえもトラップを仕掛けた事をすっかり忘れていたので、二人の本当の居場所を知らなかった。それに、その紙は澪亮達との激戦でとっくにばらばらになってし まっている。澪亮達が、あきはばら達がトラップに引っかかった事を知る手立てはない。
 さらに悪い事に、トラップはかなり巧妙に出来ていて、ふたごじまにはもうトラップの痕跡は全くなかった。
 探索部隊は何も知らず、船でグレンじまに帰っていく・・・。
 最早、この二人に希望はなかった。





 ――いちがいに『霊魂達の力を借りる』といっても、しかしどうす ればいいのかは分からない。
 勿論、RX達が作戦を考えつくまで待っていてくれるほどゼロは優しくはなく、四人はゼロからの猛攻をただひたすら交わすしかなかった。
「くっ・・・」
 本当にゼロの言う通り、彼を倒す術は何もないのか・・・。
 瑞は、逃げながらも必死に考えていた。
 この精神世界の支配者、ゼロを倒すには―――
「待てよ・・・精神世界?」
 皆のいる普通の世界ではなく、死者の送られる特別な世界・・・。
 瑞がそう考えたのとほぼ同時に、ゼロの『りゅうのいぶき』が炸裂!
「ぐわぁぁ!!」
「きゃぁぁ!!」
 スタミナの尽きかけていた全員が、まともにその攻撃を受けてしまった。
「――っ、ファビオラさん!?」
 そして、弱点であるドラゴンタイプの技を受け、遂にファビオラは気を失ってしまった。
 ゼロはその様子を見て、誇らしげに笑っている。
「残るは三匹か。お前らを倒せば邪魔者は消える。あとは、生の世界の奴らを倒すだけだ!」
「そうはさせるか!」
 瑞は神田の霊魂に走り寄ると、何事かをささやいた。神田は、『それはいけない』という風に瑞の周りを飛び回る。
 瑞は、叫んだ。
「でも、でももうこれしかないんだ! お願い・・・協力して!」
 神田はふわふわと瑞の元に舞い降り、頷くような仕草を見せた。
 瑞は、ゼロに向き直る。
「今から、この精神世界を消し去る!!」
「えぇっ!?」
 瑞の発言に驚いたRXが、彼女を見る。
「それはどういう事だよ、瑞さん!?」
 だが、浅目はその発言に納得がいったようだった。
「そうか、この精神世界を消し去れば・・・身体のない私達もろとも、ゼロは消える」
 つまり、精神世界でのRX、瑞、浅目、そしてファビオラの存在と引き換えにすれば、ゼロを消す事ができる、と・・・。
「そういう事。ここの支配者だった神田さんに協力してもらってね」
 瑞は、ゼロを思いっきりにらみつけた。




 一方、グレンじまに戻った澪亮達探索部隊はというと・・・。
「でも、この広い島をまた探すっていうのも・・・なんつーか、二度手間?」
「別にクエスチョンマーク付けなくても、普通に二度手間ね」
「ったく・・・大体この地図がおかしいんや、何でふたごじまに二人の名前が表示されとんのに、二人はおらへんねん」
 223が画面を睨みつける。その画面には、相変わらずふたごじまに「Akihabara」「Hiko」と表示されていた。
 ・・・と、船の真ん中辺りにいた愛が、ゴーリキー達の間に何かを見つけた。
「あれ、これ何でしょう?」
「ん? どないしたん?」
 三人が愛に駆け寄る。
 彼女が指した先・・・床板が、一部めくれている。ゴーリキー達の陰になって、一見すれば分かりにくいのだが。
「なんやこの船、不良品なんか?」
「あ、それありうるな」
 澪亮がそう答え、床板に手を伸ばした。そこにあったのは・・・。
「あ? 何だコリャ、ボタンがあるぞ」
「ボタン??」
「えーい押しちゃえ! ぽちっとな」
 ウイ〜ン・・・という音。画面が、パッと切り替わった。
「あ?」
 今度表示された地図は、先程と同じに見えた。しかし・・・。
「何ですかこれ? グレンじまとふたごじまを結ぶ直線の上に×印・・・・・・」
 確かに愛の言う通り。あのキャモメが言っていたものらしい、グレンじまとふたごじまを結ぶ道の丁度真ん中辺りに、赤いバッテンが付いている。
 223がカーソルを動かし、その×印をクリックした。左の画面に、説明らしい文字が浮かび上がる。――しかし。
「何だこれ、英語じゃんか?」
「日本語機能ついてないんですかこの船!?」
「でも・・・そう考えてみれば、ひこさん達の名前かてローマ字で表示されとったし・・・」
「――これはあれね、私達が策略にはまっちゃったみたい」
 由衣が呟いた。
「きっと、ゴーリキーは倒される前、どさくさにまぎれて偽の地図をあのボタンで浮かび上がらせたんだわ。私達が、あきはばらさん達のところまで、辿り着け ないように・・・」
 ゴーリキー達も、あきはばらとひこがふたごじまにいないと知っているだけで、実際の居場所は知らなかったわけだが、勿論澪亮達はそれを知らない。
「うわ〜、とことん性格悪いぜ『ドリームメーカー』って・・・」
「この説明も手間取らせる為かしら? まぁドイツ語とかフランス語とか、その辺でなかった分だけ感謝しなきゃ、ね」
 由衣はそう言うと、画面を見据えた。
「ちょっと訳すのに時間かかりそうだけど、待っててくれる? 英語なら、何とかなりそう」





「でも瑞さん!」
 瑞の『精神世界を消し去る』という突拍子もない考えに驚いたのは、ゼロだけではない。
「俺達はともかく、ここでゼロに殺された無数の霊魂達も巻き添えにする事になるんだぜ! それでもいいのか!?」
「分かってる! でもゼロを倒すには、これしか・・・」
「や、やめろ! やめてくれぇぇ!!」
 『精神世界を消し去る』という考えに、ゼロは初めて臆し始めたようだ。
 一方の神田は、「ゆくぞ!」という台詞が聞こえんばかりの様相だ。
 これで、勝てるかもしれない。これで悠達に道を開いてやれる・・・。
 RX達三人+神田が、そう思ったときだった。
「早まってはいけません!」
「!?」
 ゼロに倒されたファビオラが、かろうじて体力を残して立ち上がった。『リフレッシュ』で、状態異常だけは免れたようだ。
「ゼロの二つ名は『冥府の司祭』。彼だけが生の世界と死の世界をつなぎ、そこを行き来する事ができるのです。この精神世界を消しても、彼はきっと生者の世 界に逃げるだけです!」
 ゼロは舌打ちをした。さっき臆していたのが嘘に思えるほどの、いびつな表情に戻る。
 ――いや、嘘だったのかも知れない。
「余計な事を・・・喋りすぎなんだよ、ファビオラ!!」
 浅目は、背筋がぞくっとするのを止められなかった。
 ゼロが臆した芝居をしていた目的は、精神世界の消滅と同時に彼だけが逃れ、RX達の全滅を誘う事だったと分かったからだ。
「この精神世界は、俺が作ったものだ。神田は俺がこの精神世界の番人を任せたに過ぎん。ククク・・・分かるか?」
 ゼロは大きく翼をはためかせた。
「それが、この俺が『冥府の司祭』と呼ばれる所以(ゆえん)だ!」
「その精神世界だって、元々は死した者達が安心して暮らせる平和な世界だったでしょう!」
 ファビオラはゼロの言葉を真っ向から否定する。しかし、ゼロは馬鹿にしたようにファビオラを見るだけだった。
「ほざけ。生命(いのち)なぞ次から次へとどんどん生まれてくるだけだろうに。フフフ・・・」
 ゼロには、『正義』も『悪』も関係ない。『ポケモン界にとって有害な者・作品の淘汰』の大義を借りて、ただ『殺戮』と『死』を弄ぶのが目 的・・・・・・。
 それに気づき、瑞はこの男に対し、最早怒りを通り越して危険を感じていた。
(一体、『ドリームメーカー』の『正義』って何なの? いくらポケモン界にとって有害な者を退治しているといっても、こんな殺戮が本当に許されていい の・・・!?)
 当然、答えは―――
「もう死に時だ! 諦めるんだな、ハハハハハ!!」
 ゼロは浅目に向かって『つばめがえし』を仕掛けた!
「くっ・・・へ、『へんしん』!!」
 浅目は直撃寸前に『へんしん』を使用、サニーゴになってダメージを最小限に食い止めた。
 そして、そのまま攻撃に転ずる。
「『げんしのちから』!」
 しかし、ゼロはまた『無』となった霊魂の中の一つを『みがわり』にしてしまう。
「当たれば・・・当たれば効果は抜群なのに・・・!」
 攻撃をすれば他者を盾に『みがわり』を使い、『ほろびのうた』を使えば『ほえる』で掻き消され、この世界そのものを封じようとすればRX達の自滅を誘い 現実世界へ逃れる。もう打つ手無しに思えた、その時。
「みんな、ごめん! 『ダークハーフ』! そして『ダークウェザー』!!」
 RXが、ダーク技を使用した。
「!? ――きゃぁっ!!」
「くぅぅ!!」
 『ダークハーフ』は、敵味方の区別なく全体のポケモンのHPを半分にする技。そして『ダークウェザー』は、ダークポケモン以外が少しずつダメージを受け る天候技だ。RXは、自分と瑞以外は皆がダメージを受ける『ダークウェザー』、全員で体力を大幅に削る『ダークハーフ』で、敵も味方も、自分すらも危険に 晒す賭けに出たのだ。
「がぁぁっ!! き、貴様ぁぁ!!」
 ゼロの苦しげな表情も、今度は芝居ではない。まさかこの世界でダメージを受けるとは彼自身も想像だにしていなかったのか、相当動揺しているようだ。
 しかし、ゼロは何とか持ち直して言う。
「・・・ふん! しかし、ダメージを受けたのはお前達とて同じ事。俺の有利に変わりはない!」
 ゼロの言う通り、RXはもう味方達が満身創痍な事に気づいていた・・・。
「一発でもいい、ゼロに一発、攻撃が加えられれば・・・!!」
 RXは強くそう思う、しかしゼロは余裕の表情を取り戻していた。





「『TRAP(トラップ)』・・・」
 なにやらぼそぼそと呟きながら説明に目を通していた由衣が、皆に向けてこう言った。
「この×印、どうやらトラップを指しているみたい。誰かがトラップに引っかかった場所・・・って感じね」
 この場合、その『誰か』については説明不要だろう。
「んで? どんなトラップだって?」
「『テレポートトラップ』。まあ名前の通りなんだけど、踏んだらどっかに飛ばされちゃうみたい。この場所でそれに引っかかった人がいるらしいわ」
「そうか、それでひこさん達は、別の場所に飛ばされてしもうた訳やな?」
「どうやら、そういう事のようね」
「行き先は、分かんないんですか?」
「それが・・・・・・分かんないのよ。肝心の行き先が書いてないの」
 一同は自覚せず溜め息をついていた。
 ふと、223が思いついたように顔を上げる。
「ん? どうしたんだ?」
「出来るかどうか分からへんけど・・・」
 パネルに手を滑らせる。
「愛は、人の顔を思い浮かべて『テレポート』が出来るんやろ? それと同じやとしたら・・・。由衣、さっきのボタン押してくれんか?」
「あ、うん」
 合成音が聞こえる。
『イキサキヲ ニュウリョク シテクダサイ』
 彼の打った行き先は、こうだった。
『あきはばらとひこがいる所』
「あ、なるほど・・・!」
「でも、それ行けるんですか?」
『イキサキヲ ケンサク シテイマス シバラク オマチクダサイ』
 さっきよりもだいぶ長い時間をかけて、しかし船は行き先を検索し終えた。
『イキサキ カクニンデキマシタ ダイニボタンヲ オシテクダサイ』
「え!? 確認できたの!?」
「よっしゃ、出発だ!!」
 澪亮は第二ボタンを押す。
『シュッパツ シンコウ』




 十二階の敵を全て倒した突撃部隊は、十三階へ通じる階段の手前で一度休憩 をとる事にした。
 だが悠は、晴れない顔をしている。
 気になっているのだ、レオーノの存在が。彼が言った事が。
(『ドリームメーカー』にとっては、僕らを倒す事が正義・・・僕らにとっては、『ドリームメーカー』を倒す事が正義・・・。客観的に見ても、虐げられてる のは僕らだけど、向こうだって『夢の作り手』、純粋な子供たちの夢を、守ろうとしてるだけなんだし・・・)
 考えれば考えるほど、分からなくなってくる。
(ったく、言うだけ言ったよなぁ、あいつ・・・)
 でも、その言葉に動揺してしまう自分もまた、ここにいるわけで。
 考えれば考えるほど、迷いは堆積していく。
 その気分を紛らわすように、ふと気づいた事を悠はあかつきに言った。
「そういえば、あかつきさんはこちらの世界に来られるまでの事を何も言っていない気がしますが、もし良かったらこの機会にでも話してくれませんか?」
 しかし、あかつきは目をぱちくりさせる。
「え? オイラ!? う〜ん・・・実は良く覚えてないんだ・・・。でも興味なんてないよ!」
 興味なんてない・・・その言葉に悠は少し驚いた。
「だって、そうでしょ? 今オイラ達がここにいるっていうのは事実なわけだし、ホントの自分が何なのか、なんて考えてる余裕はないよ。時にはブルーになる けど、今生きるので精一杯なんだ! 何かに打ち込んだり、誰かと仲良くなったり、それだけでオイラは十分! 何事も楽しまなきゃ、ね!」
「何事も、楽しく・・・」
 無意識の内に、あかつきの言葉を復唱する悠。あかつきはにっこり笑って続けた。
「ファビオラ様に育ててもらった事、みんなと出会えた事、みんなの前で歌えた事、全部『こころのたからばこ』に入れて、次はどんな宝物に出会えるのかなっ て考えるのが、楽しくて仕方がないんだ! そ・れ・と! 『さん』は要らない!」
 期待していたものとは違うこの返答。でも、悠はその意味が分かる気がした。
 あかつきは、特別に前向きなわけでも、プラス思考なわけでもない。毎日を純粋に楽しんで、それを心から笑えているのだ。
 そう感じたのは、恐らく質問者だけではない。
(何事も楽しく・・・か)
「そんな事、この世界に来てから忘れたような気がする・・・」
 悠はあかつきをもう一度見た。あかつきは、質問は終わりだといわんばかりにあちこちを嗅ぎまわり始める。特性『ものひろい』を発動しているのだ。
「あ、もひとつみ〜っけ♪ ――ん? 悠、何か言った?」
「い、いや、別に何も!」
 条件反射で、何も言っていないような態度を装う悠。
 そして、頭の中であかつきの言葉を反芻(はんすう)し、考え込んでしまう。
(おかしいな、さっき吹っ切れたはずなのに・・・。正義感とか、義務感とか、そんなの考えてちゃあかつきさんの答えは分からない気がする。そういえば、こ の世界に来てからというもの、心から楽しいと思った事は一度もなかった・・・)
「ばぁ!」
「うぅわっ!!!」
 突然目の前に現れたあかつきの顔に驚き、ひっくり返ってしまう悠。
 前回の反省もあり、今回は反射的に攻撃しそうになった自分の足を何とか押さえた。
「な〜に落ち込んでんのさ〜! オイラの言った事、気にしてんのぉ?」
「悠さん、考え込んじゃだめですよ。今はそれぞれの気持ちが、どんな形でもまっすぐ前に向いている事が大切です!」
 あかつきとヒメヤが悠を励ます。
「そう、ヒメヤの言う通り! 今大切なのは、みんなの個性と、マッスグGO!GO!!な心だよ!」
 それがあれば、どんな状況でも突き抜けていく事が出来る。
「そう・・・・・・そう、ですよね」
 もう悠の顔に迷いは見えない。それは、仲間を少し理解できた、と思った一体感からかも知れない。
「考えれば、現実でもこんなに充実していた気持ちはなかったな・・・。今あかつきさんが言った事を、僕なりに理解できたのかも知れない」
(この際、『正義』とかそういう事は忘れてみよう。たとえこの僕が『本物』じゃなくても、今ここに、この場所に仲間達と存在する『僕』として、進んでいこ う!)




 五分位経っただろうか。
 突然、船から声がした。あまりに突然の事だったので、皆思わずびくっとしてしまう。
『ゼンポウニ キケンアリ ドウスルカ シジヲクダサイ』
「え? えっ!? 前方に危険、ですか!?」
「おいおい、どうなってんだよ・・・」
 見た目では、何もないように見えるのだが。
 由衣が船に尋ねてみる。
「危険って何?」
『テレポートトラップ デス』
「このまま進むと、どうなるの?」
『テレポートデ ホカノ バショニ トバサレマス』
「他の場所って、どこや?」
 今度は223が訊いてみる。
『ヨソク フカノウ デス』
「予測不可能、だぁ? この不良品めっ!!」
 澪亮が当り散らすが、分からないものは仕方がない。
「そのトラップは、ふたごじまとグレンじまの間にあったあのトラップと、同じものなの?」
『オナジモノデ アルト ヨソウサレマス』
「あくまで、予想なんですね・・・」
「でも予想っていっても、この声はコンピューターなのよね。ある程度確証がなければそんな事言わないわ」
「だろうな・・・じゃ、それに乗ったらひこさん達のところへ行けるのか?」
『イケル カクリツガ タカイデス』
 この声で、四人の心は決まった。
「よっしゃ、前進だ!」
『リョウカイシマシタ テレポートニヨル ショウゲキガ ヨソウサレルノデ シッカリト オツカマリクダサイ』
 船からその声が聞こえた瞬間、がっくんと音がして船が大きく揺れた。
「うわぁぁっ!!?」
『テレポートシマス!』


 気が付くと、船は陸地に乗り上げていた。
「あててて・・・・・・。もう、コンピューターは進化しても、『テレポート』は進化しないのっ!?」
 エスパータイプのせいに愛はそんな愚痴をこぼす。
 四人は船から降り、辺りを見渡した。そして、ここがどこなのかに気付く。
「え・・・ここって・・・無人発電所!?」
「ここ、二回くらい来たじゃないの・・・?」
「俺も愛さんも、間違ってなかったって事か?」
「うわ、二度手間どころじゃあらへんでこれ・・・」
 それでも、何とかあきはばらとひこ達のところに着いたのだ。
 四人は無人発電所の入り口を見る。先程と同じ様に、入り口は鎖されていた。
 扉に触った愛が、小さな悲鳴を上げて手を引っ込めた。
「いったぁい・・・。外壁まで電気が通ってますよこれ」
 それから、少し考えて言う。
「じゃあ、私が『サイコキネシス』で一時的に電気を止めますから、澪亮さんと由衣さんで扉を開けてください」
「え? 何で俺には役目がないんや?」
「だって、223さんは人間でしょ。感電しても知りませんよ」
 愛はさらりと言い、無人発電所に手を向けた。
「さあ、やりますよ! 『サイコキネシス』!!」
 バチバチという音が、一時的に止んだ。
「よっしゃ、行くぞ由衣さん! 『シャドーパンチ』!」
「『とっしん』!」
 澪亮と由衣が扉にぶつかる。ばぁぁん・・・という音と共に、扉が内側に開いた。
 四人は中に入る。
 ――と、その瞬間、ガギンという鍵がかかるような音が。
 見ると、扉が閉まっている。
「おい・・・これ、開かないぞ?」
 扉を押したり引いたりして、澪亮が言う。その声には、僅かに焦りが含まれていた。
「俺達・・・閉じ込められちまったみたい、だな」
「って事はこの奥に、ひこさん達がいるんですね! やっぱり私の勘に狂いはなかった!!」
「・・・本当?」
「さ、前に行きましょう!」
「・・・・・・無視?」
 ちなみに、この扉もまた、仕掛けたまま忘れ去られた罠だったのだが、澪亮達はそんな事知る由もない。





―――――――――――――――――――――
  一方、現実世界でまた一人の犠牲者が出ようとしていた。
  学校から帰ってきた男が、ブックマークの『ポケモン』フォルダから『ポケ書』を開いていたのだ。
  彼のHNは水無月琴美。女みたいだが一応男だ。
  水無月は、《なんでもおはなし板》に入った。途端、例のスレッドの乱立を見て、首をかしげる。
 「荒らし・・・にしちゃぁ手が込んでるな。誰の仕業だよ」
  まぁいいや。レスしてみようか。
  そう胸中で独りごち、『返信』を押してしまったのだ――。
―――――――――――――――――――――




 その頃四人は、三匹のコイルと格闘していた。
「『メロメロ』は、効かないんですよね・・・『サイコキネシス』!」
 愛がコイルの動きを止め、その間に澪亮と由衣が攻撃する。
「ていっ!!」
「おりゃぁぁ!!」
 効果がいまひとつの技でも、使い続ければ効果はでるもの。二体のコイルが瀕死になり、墜落する。
 しかし、残りの一体が、他よりもレベルが高いのかなかなか手ごわい。
 ――と、223が上を指し、言った。
「なぁ、あれって・・・」
 三人もつられて上を見る。
「あ、アレは・・・あの光の輪は・・・!!」
 そう、それは確かに、皆がそこから出てきた光の輪。
 そして、そこから落ちてきたのは・・・一体の、サンドパンだった。
 クラッシュの例があるので、敵か味方かが分からない。慎重に見極めようとするが、緊張感のまるでないそのサンドパンの声にそれは掻き消された。
「あててて・・・。ったく、『ポケ書』はどうなってるんだよぉ・・・」
 独り言のようにこぼしながら、サンドパンは立ち上がる。
 辺りをぐるっと見渡し、澪亮達とそれからコイルを見て、ようやく自分の置かれている状況を理解したようだ。
「なっ、何!? ここどこだ!? 俺、一体――」
 彼は、多分敵には回らないだろう・・・由衣はそう判断して、早口に言葉を掛ける。
「とりあえず危機的状況なんで、詳しい事は後で話すわ。私の質問に簡潔に答えて、あなたのHNは?」
「俺の? ・・・水無月、琴美」
「水無月さん!?」
 その名前には聞き覚えがあった。確かに、『ポケ書』の住人だ。だが、水無月の一人称は『私』だったはず・・・?
 愛は腑に落ちない他の三人――いや、四人を差し置いて、独りで納得している。
「そっか、水無月さんだったんですね〜。納得」
「なぁ〜に一人で納得してんだよあんたは」
「だって、私のサイトでは水無月さん『俺』が一人称ですもん」
 あ、納得――と思った一行のど真ん中に、コイルの『10まんボルト』が炸裂!
「そうだ! それどころじゃなかったんじゃねぇかっ」
「あの〜・・・全く状況が理解できないんだけど・・・」
「説明は後でするわ! 兎に角、水無月さんはサンドパンになってここに飛ばされてきた、そして今はあのコイルを倒す事が先決! OK?」
「な、なんか良く分かんないけど・・・OK・・・」
 由衣のやや不親切な説明に首を傾げつつも、水無月はコイルに向き直る。
「取り敢えず、ここは私にやらせてくださいよ」
 一人称を『私』に戻して、彼が言った。
「あ、じゃあたのんます」
 あっさりとそう言い、澪亮は後ろに下がって傍観を決め込む。
 愛、223、由衣も少し後ろに下がった。
「コイルか・・・余裕、ですね」
 水無月はそう言うなり、床に手をついた。
 そして、心のどこかでふと不思議に思う。
 自分は今、この状況を全く理解できていない。一連の会話で、どうやらあのサーナイトは誰だか見当は付いたが、残りのゴーストとグラエナと、それからシュ ウは誰なのだろう? そして、自分はなぜかサンドパンになっており、敵・コイルと対峙している。夢でなければ何だというのか。もうわけが分からな い。
 それなのに、どうすべきなのか水無月には良く分かっていた。自分がこの場でどうすべきか。どうやって、あのコイルを倒すべきなのか。
 ――ポケモンの本能、とでも言えるだろうか。
「『じしん』!!」
 飛行タイプも特性『ふゆう』も持ち合わせていないコイルには勿論、味方も直撃する『じしん』。
 コイルは倒せたが、愛と223と由衣もほぼ同様にぐったりしていた。
「わっ、私勝ちましたよ〜!!」
 笑顔で言う水無月。
「すごいねぇ〜、コイル撃沈だよ! カックイイ!!」
 ただ一人、特性のおかげで無傷だった澪亮が、水無月の頭をばしばし叩く。
「ちょっ、いた、痛い・・・何で頭なんすか」
「だってお前の背中痛そうだもん」
 何はともあれ、電気ポケモンばかりが生息する無人発電所内において、とても心強い味方が出来た事は事実だ。
「じゃあ・・・この状況、説明してもらえますか?」
「えぇと・・・どこから説明すべきかしら。私達も詳しくは良く分からないんだけど・・・。あ、そうそう、私は由衣」
「俺は仙崎澪亮」
「愛です」
「俺は223や」
 そう自己紹介すると、水無月は目を丸くして四人を交互に見た。
「え、えぇっ!!? 由衣さんに澪亮さんに愛さんに223さん!?」
 ――ある程度予想は出来ていても、実際にこの間まで掲示板上で会話していた人達の名前を出されると、やはり驚いてしまう。
 HNでしか知り合えなかった友達が、姿はポケモンやトレーナーとはいえ、現実に目の前に存在するのだ。
「そう。私達はみんな、多分あなたも同じだと思うけど《なんでもおはなし板》に吸い込まれて、この世界にやってきたの。この世界では、『ドリームメー カー』なる組織が有害なポケモン作品を淘汰して、子供達の夢を守るために戦ってるのよ」
「この世界は、全てのポケモンを愛する心から生まれた仮想空間らしいぜ。ヒメヤさん達がそんな事を言ってた気がする」
「ヒメヤさんもこの世界に!?」
「そうなんですよ。他にも沢山の方がこの世界に飛ばされて来てしまってます」
「で、その『ドリームメーカー』に、有害な作品として目を付けられちゃったのが、『ポケ書』なのよ。『ドリームメーカー』は、ソアラさんを監禁しているら しいわ。そして、その『ポケ書』に出入りしている私達も有害であると見なし、刺客を送り込んで私達を殺そうとしている・・・」
「・・・・・・それで、殺されてしまった者もおるんや・・・」
 次々告げられる新事実に、水無月は目を白黒させるばかり。状況が理解できているのだろうか・・・?
(まぁ、この状況を理解しろと言うほうが難しいけどな・・・)




 一方、箱の中で監禁されたあきはばらとひこはというと。
 ここまで『じしん』は届いていて、二人はその話をしていた。
「さっき、地震ありましたねぇ」
「きっと、皆が助けに来てくれたんですよ!」
 少しでもいい方向に話を持っていこうとするひこ。しかし、あきはばらは、
「そうとは限りませんよ。敵が建物ごと、私達を潰そうとしているのかも知れませんし・・・」
「そんな事言わないで下さいよぉぉ・・・プラス思考で行きましょう・・・?」
 ひこの声はかなり悲痛だった。




「で、今は悠さん達が敵の本拠地であるグレンじまの塔に乗り込み、私達 ははぐれたあきはばらさんとひこさんを探す為に悠さん達と分かれて、あちこち探し 回ってたの」
「ちょっと待ってくださいよ? 今、ワカシャモの悠さん、ブースターのガムさん、ジュプトルのヒメヤさん、オオスバメのワタッコさん、マッスグマのあかつ きさんがその塔とやらにいて、ここにいる皆さんが奥のライチュウのあきはばら さんとモココのひこさんを助けに来た、んですね?」
「最後に見た時はメリープだったんだが、どうやら進化したらしいぜ」
「まあ、説明はそれくらいでいいんじゃないですか? また思い出したときに教えてあげればいいと思いますよ」
 愛の言葉に、澪亮が頷く。
「んだな。今は、秋葉さんとひこさんの救出を優先しようぜ」
「まあ、大体把握は出来ました・・・その『ドリームメーカー』を何とかすればいいんですね?」
「至極簡単に言えば、そういう事やな」
 取り敢えず、五人はあきはばらとひこの名を叫びながら、奥へと進んで行った。
「あきはばらさ〜ん、ひこさ〜ん!!」
「今から行くぜ〜! 返事しろこら〜っ!!!」




「あ、今何か聞こえませんでしたっ!?」
「聞こえましたね、澪亮さんの叫びらしきもの」
「きっと救助隊として助けに来てくれてるんですよっ。何だか新しく出たゲームみたいですけど・・・」
「――だといいですね」
「あ〜き〜は〜さ〜んっ!!」




「さぁっ、この調子でガンガン行くぜ〜! ♪ガンガン行くぜ風切って  ガンガン行くぜ最後まーで・・・」
 澪亮はめちゃくちゃ張り切り、乗りに乗って歌まで歌っている。
 そんな澪亮に、愛がさらりと言ってのけた。
「じゃあ、水無月さんが『じしん』を使うときは、私達澪亮さんの『ふゆう』の力で浮かせてもらいますね」
「・・・はっ!? 何でだよ!?」
「あなたはともかく、私達は『じしん』でダメージ受けちゃうんですよ? 浮いてでもないと困ります。それか、私が『サイコキネシス』でみんなを浮かせ る、っ て手もありますけど、その場合は『サイコキネシス』がかからない由衣さんを、あなたが浮かせてあげてください」
 澪亮は少し考えて、考える必要はないと判断した。分担した方が、お互いにかかる負担も少なく、効率はいいに決まっている。
「じゃ、愛さんそれで頼む」
 しかし、提案者も提案者で少し考え込んでしまう。
「でも、それだと私だけダメージが来るって事・・・?」
「自分を浮かせれば大丈夫よ」
 由衣が助け舟を出した。
「さ、行きましょう」
 水無月の声で、五人は歩き出す。


「どりゃあああ! 食らえ、『じしん』!!」
「『サイコキネシス』!」
 水無月の『じしん』と同タイミングで、愛の『サイコキネシス』と澪亮の『ふゆう』の力が残りの人員を浮かせた。
 ビリリ・・・という声をあげ、ビリリダマ達が床に転がる。味方は無傷で済んだ。
「水無月さんが地面タイプで、助かりましたね〜」
「ほんまや」
「いえいえ、当たり前の事をしただけですよ」
 とは言うものの、水無月の横顔はどことなく誇らしげ。
 と、澪亮が突然話を切り出した。
「なぁなぁ、みんなで徒歩、っていうのも疲れるし進み遅いしさぁ、これから由衣さんの上に乗って移動しないか?」
「―――はっ!?」
 何を言われたのか理解するのに三秒要して、由衣が驚いたように澪亮を見上げる。
「そんな藪から棒に・・・大体、何で私の上なのっ!?」
 澪亮は由衣をにらむ。
「あんたが一番乗りやすいからだよ!」
「理由になってないっ! 第一、浮いてる澪亮さんはともかく、愛に223に水無月さんまで乗せたら定員オーバーよ!!」
「・・・でも・・・」
 愛が口を挟んだ。
「みんなが由衣さんの上に乗って・・・一箇所に固まっててくれれば、『サイコキネシス』がかけやすいのは事実なんですよね・・・」
 一瞬の逡巡の後、由衣は仕方ないなと言いたげに溜息をついた。
「・・・分かったわよ。みんな乗って、その代わりスピード出すからしっかり掴まっててね」




「また・・・地震ですね」
 まだ発生地は遠いので、二人へのダメージはさほど大きくはない。ただ、それでも効果が抜群の技のダメージを食らっているのは事実なのだ。
「体力、大丈夫ですか、ひこさん?」
「私は大丈夫ですけど・・・」
 ひこはそう呟くように言って、通路の先のほうを見る。澪亮達らしき影は、まだ見えない。
「来てくれますよね・・・絶対、来てくれますよね・・・」
「大丈夫、ですよ。私達は、みんなを信じてここで待ちましょう」
 箱に閉じ込められてから初めて前向きな事を言って、あきはばらはにっこり微笑んだ。




「あれ、あそこに見える壁みたいのって・・・」
 水無月が進行方向を指した。そこには、透明だが壁と思しきものが。
 中に人影(ポケモン影?)も見える。
「あれ、あきはばらさん達じゃないですか?」
「残す所あとワンエリア、って感じですね」
 大体五メートルワンエリアとして勝手にエリアを区切り、水無月が言う。
「もうひこさん達は目と鼻の先、やな」
「ここにいたらの話だけどな」
 そんな事を言う澪亮。
「ポジティブ思考で行きましょうよ澪亮さんっ」
 愛がたしなめるように言う。それから、ふと思いついたように言った。
「ねぇ、そういえば・・・『ポケ書』のほかの住人さん達、どうしてるんでしょうか? 私達みたいにどっかに飛ばされてるのか・・・」
「荒らしだと思って、ネットマナー守って、手ぇつけてないんじゃないかしら?」
 下から由衣が言う。三人を乗せて全速力で走っているので、だいぶ息が切れているようだ。
 その返答を聞いて、愛がボソッと言う。
「じゃあ、私達は馬鹿ですか」
「・・・・・・・・・・・・忘れましょ」




 そして、澪亮達探索部隊はとうとう、本来の目的を達成した。
 壁・・・というか箱の中にいる、あきはばらとひこを発見したのだ。
「秋葉さんっ、ひこさん!!」
 澪亮が叫ぶ。
 箱の中で、あきはばらが透明な壁を指して何やら言った。――しかし、何を言っているか聞き取れない。
 あきはばらとしては、『この壁は[バリアー]などの壁系の技で構成されている、崩すにはかなりの強い攻撃を加えないといけないけど、この至近距離で[じ しん]はやめてくれ』と伝えているつもりなのだが、声が届かないためそのジェスチャーで読み取れる言葉にも限界がある。
 箱の外で、澪亮達は首をかしげた。
「何言ってんだよ秋葉さん? 全然聞こえねぇって」
「どうやら、中の音は全部シャットアウトされるみたいね・・・」
 壁を叩いてみて、澪亮が言った。
「だめだな、こりゃ。ちょっとやそっとじゃ壊れそうにない」
「じゃあここは、私が『じしん』で――」
 水無月がそう言いかけると、あきはばらとひこが必死で『NO』の仕草を送る。どうやら、外の声はばっちり聞こえているらしい。
「そっか、『じしん』でダメージ食らっちゃうんですね・・・」
「私の『サイコキネシス』で浮かせれば――」
 愛がそう言って『サイコキネシス』をかけようとするが、壁に跳ね返されるようにして中まで届かない。
「あ・・・あれ?」
 と、あきはばらが壁の一部をこつこつと叩いて示した。次いで、何かを壁に書き始める。勿論筆跡は残らない。彼女の手の動きのみで言いたい事を察しなけれ ばならず、また書く側も鏡文字を書いている恰好となるので、どちらも大変だ。ひこが不安げに、その様子を見守る。
「ミ・・・ミラ・・・? ――あ、分かった!」
「『ミラーコート』、やな」
 あきはばらは、百パーセントとはいかないまでも、壁のその部分にはかなりの割合で『ミラーコート』が含まれているのを、見抜いていたのだ。それを伝えよ うとしたのである。
 そしてそれから、拳をその壁にぶつけるまねをした。
「この壁をボコれ?」
「れ、澪亮さんそれは違うと思います・・・」
「まぁ、近い意味だとは思うけどね。差し詰め、『物理攻撃でこの壁を壊せ』・・・ってところかしら」
 『ミラーコート』で跳ね返されるのは、特殊攻撃のみだから。
 由衣の言葉に、あきはばらは頷いた。この部分には、『ミラーコート』の他に『リフレクター』が含まれ、物理攻撃のダメージを弱めてしまうのだ。だから、 あきはばらとひこだけで壊すのは難しかった。
 だが、外側からも攻撃を加えれば、もしかして・・・。それが、あきはばらの考えだった。
「よし、そうと分かりゃぁ早速!」
 物理攻撃の苦手なロゼリアを持つ223と愛は、一歩後ろに下がった。
「『シャドーパンチ』!」
「『きりさく』!」
「『とっしん』!」
 ダメージを弱めようとする『リフレクター』の勢いすらはじき返すように、三人は壁にぶつかっていく。
「もう一回だ!」
 ドン、という鈍い音に、ギシギシと軋むような音が重なった。びくともしないかに見えた壁に、ひびが入り始める。
 ありがとうございます――そんなあきはばらの声が、壁の裂け目から聞こえた気がした。
 そして次の瞬間、彼女の拳が壁に炸裂した!
 ガラスが砕けるような音を立て、箱の一面が粉々に崩れ落ちる。
 あきはばらの――『いわくだき』、だ。
「皆さんありがとうございます、助かりました」
「よ、ようやくでられましたよぉ・・・ありがとうございますっ!」
 あきはばら達と、澪亮達が合流した。




 さて、休憩を終えた突撃部隊は、十三階へ上る階段を上がっていた。
「・・・!?」
 しかし、上り終えた悠は部屋の入り口で思わず立ち止まってしまう。
 ただならぬ気配を感じたのだ。
 殺気・・・恨み・・・そして怒り。そんな感情が入り交ざった気配が、ひしひしと感じられる。
「な、何だ・・・この異様なまでのプレッシャーは――・・・っ?」
 自分の言葉で、悠ははっと気付く。これはきっと、特性『プレッシャー』だ・・・!
 と、悠の隣に立ったヒメヤが驚愕の表情を浮かべ、少し向こうの床を指した。
「・・・! 悠さん、あそこを見てください・・・っ」
 そこには、バラバラにされて潰されたアーマルドの死骸があった・・・。
 この状況で、ここで殺されている人なんて一人しか思いつかない。
「まさか、あれはソアラさん・・・!?」
 しかし、次の瞬間それは消えた。
「幻覚、か・・・」
 ひとまず皆は胸をなでおろす。
 だが、それも束の間。悠は、さらに『プレッシャー』が強まるのを感じた。
「フッ、驚いたかしら? 今のは『みらいよち』を使った幻影よ」
 彼らの前に姿を現したのは、一体のアブソルだった。ふっ、と『プレッシャー』が弱まる。
 そのアブソルをみて、あかつきが驚いたように一歩後ずさった。
「あ、あなたは・・・!」
「久しぶりね、あかつき!」
「え・・・知り合いですか、あかつきさん?」
 驚いたようにヒメヤが声を掛ける。そんな彼らに、そのアブソルは言った。
「私の名は『災いの暗黒星』、イーナス。元ファビオラ軍副隊長にして、ファビオラ様に最も忠誠心厚きポケモン・・・」
「ファビオラ軍副隊長だって!?」
 ガムは、ファビオラと聞いて驚かずにはいられなかった。だから、あかつきと面識があったのだ。
 しかし、名乗り終えるとイーナスは『暗黒星』の名の通りとも言える、黒い色が見えそうな殺気をまとった。それがひしひしと伝わってくる。
 そして、有無を言わさぬ速さでガムに飛び掛った!
「お前・・・ファビオラ様をたぶらかしたのはお前だな!?」
 と叫びながら、憎悪の表情を向けてガムに『かまいたち』を放ったのだ!
「危な・・・がぁっ!!」
 ガムは得意の『でんこうせっか』で避けようとしたが、先程の幻覚攻撃の余韻からか十分に身動きがとれず、急所を逸らしただけでまともに背中に受けてし まった。血がぱたぱたと床に垂れる。その床にも、大きな亀裂が入っていた。
(何てすごい風圧なんだ・・・)
 ガムは背中の激痛に苦悶の表情を浮かべ、目の当たりにした彼女の攻撃の威力に恐怖していた。ほんのわずか当たる所がずれていたら、即死だったかも知れな い・・・。
「ガムさん! くそっ、『リーフブレード』!!」
 ヒメヤがイーナスに『リーフブレード』を仕掛ける。イーナスは、『きりさく』でそれに応戦した。
 つばぜり合いのような恰好で、両者が押し合う。
「ぐっ・・・!」
 だが力負けし、ヒメヤの方が弾き飛ばされてしまった。彼の『リーフブレード』の刃が折れている・・・。
(まるで・・・まるで、刀で切りつけられたような迫力だった・・・)
 ガムとヒメヤの様子を見て、あかつきが必死にイーナスに呼びかけた。
「イーナスさん、違うんだよ! ファビオラ様は――」
 しかし、イーナスの声があかつきの言いさした事をさえぎる。
「黙れ! この者達さえいなければ、ファビオラ様は『ドリームメーカー』に・・・私の傍に、ずっといてくれたものを!」
 とても強く響くイーナスの声。
(でも・・・それが、何だか泣きそうに聞こえるのは・・・・・・)
「あかつき、『ドリームメーカー』を裏切ったあなたも同罪よ! なぜ、ファビオラ様は戻って来られないの!? なぜ・・・なぜ私の傍に戻って・・・」
「そ、それは・・・」
 あかつきは言葉に詰まった。それに勢いを得たかのように、イーナスが言い切る。
「お前達が、私からファビオラ様を奪った!!」
 そう叫んで、二発目の『かまいたち』を繰り出そうとする。
「させるかっ!」
 ワタッコが『ゴッドバード』で阻止しようとするが、イーナスは技を囮に回避し、彼を睨みつけてにやりとした。
「食らえ、ファビオラ様直伝の――」
 あかつきはそれを見て、イーナスが何をしようとしているかに気づいた。
「いけない! あの体勢は、『ほろびのうた』・・・!!」
 それを食い止めようと、あかつきは『しんそく』を発動した!



・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−
11章編集終わりました、遂にサンドパンが登場です! 水無月さんどうも遅くなってごめんなさい・・・;;
今回もまた色々とエピソードを付け加えましたよ(汗
まずはハッサムのレオーノ君。あれはもう完全に私がオリジナルで造ってしまいました・・・;; 前章の悠が吹っ切れたところと、それでもちょっと疑問を持 ち始めるところを彼の心情を重視して上手く繋げようとしたら、彼に疑問を投げかける存在が必要だという事に気付いてしまったのです・・・。というわけで何 となく矛盾だらけな気もする戦いを繰り広げるレオーノを出しました。ちょっといたずらっ子系なキャラが敵に欲しかった・・・からあんなキャラになってしま いました(待
ちなみに裏設定として、レオーノとアレクセイは血が繋がってます(ぇぇぇ
この二つのキーワードを一緒に検索するとある宇宙飛行士さんの名前が出てくると思います・・・。『アレクセイ』と何となくつながりのある名前が欲しいなー と思ってたところで、丁度新聞にその人の名前が載ってるのを見つけちゃったんです。名前しか知らないんですが・・・(ぇ
あとはキャモメ君も勝手な創作です。あきはばらとひこの事を上手く伝えてくれるメッセンジャーが欲しくてキャモメになりました。ちなみに裏設定その二、あ のキャモメはその後ポケモンしか住んでない街に辿り着き、ペリッパーに進化して救助依頼を運ぶ仕事を始めますw(苦笑
それから後は水無月が感じた『ポケモンの本能』とか、あと合流の仕方もやや違います。本当は水無月の『じしん』一発で壁ぶっ壊して助けてたんですけど、そ れだと明らかにあの二人が瀕死になってしまうと気付いたので色々変えました。あと『サイコキネシス』が由衣に効かないのも途中で気付いて、気付いた時ぁマ ジ慌てました;; 気付いてよかった・・・(滝汗
♀のゴーリキーは原作はあんなに強くなかったです、トラップの発見の仕方もやや・・・ここまで来るともう全然違います(いいのかそれ?
その点、表現はあちこち変えたけど、精神世界のほうは流れはほぼ原作どおりですv てかもうここまで勝機がことごとく潰されると無茶苦茶心配になってきま すね・・・;;
まぁそんな感じで、11章完成ですv


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